第5話 特別神衛部隊

「すでにシルフから話は聞いたと思いますが、あらためて簡単に話をさせてもらいますね。

 あなたはこの世界を創造した最高神の宿り主であり、闇魔法を使用する者たちが日に日に勢力を増してきています。彼らが神の宿り主であるあなたを狙うのも、時間の問題でしょう。

 そういった事情から、こうしてあなたを保護させていただきました」

 ノーアは分かりやすい言葉で簡単に説明をしてくれた。透き通るような美声のおかげで、言葉もすぐ頭に入ってくる。

「闇魔法の勢力が消えてなくなるまで、あなたにはこの城内で生活してもらいます。王家からはすでに許可が下りているので、心配はいりません。そしてあなたに何かあっては困るので、これからは毎日、私たち特別神衛しんえい部隊が交代で護衛係を務めさせていただきます」

 特別神衛部隊――軍に所属する人間の内、選ばれた者だけで編成された部隊――、そういえばギュスターの手紙の内容と一致するとユーティアは思った。返信の手紙では勝手なことを書いてしまったけれど、このために作られたものだと知ると、何だか申し訳ない気持ちになる。

「申し遅れましたが私はこの部隊の隊長、サジェスライト=ノーア・エルフィリード・アデュートールといいます。短く、ノーアとお呼びください」

 と、ノーアが自己紹介をすると、その隣に座ったシルフが口を開いた。

「私は副隊長のシルフィネス・ヴァリ・オードです。名乗るのが遅れて、大変申し訳ありませんでした」

 そしてギュスターの隣にいる茶髪の青年がにっこりと笑顔を浮かべて発言する。

「私はダリウス・ジェニーウィック・パシェイソンと申します。以後お見知りおきを」

 こうきたら、次はギュスターの番である。個人的には深く知った仲であるが、仕事上の都合であらためて名乗らなくてはいけない。

「私はギュスター・フォルセティ・ファールバードと申します」

 と、今までとは違った恋人の一面にユーティアは妙な気分になった。その流れを受けて、自分も名乗る。

「ユーティア・サルヴァです。これから、よろしくお願いします」

 すると、ギュスター以外の全員が彼女を見て小さくうなずいた。みんないい人そうではあるが、ユーティアは少し不安だった。

「では、さっそく部屋へご案内させていただきたいと思いますが、何か質問はございませんか?」

 と、ノーアが問い、ユーティアは遠慮がちに返す。

「えぇと、わたしはただ保護されているだけなんですか? 何か、することはないんですか?」

「そうですね……伝承によると、神の宿り主はいざという時に力を発揮するそうですが、今現在は静かに守られていてくだされば十分です」


 彼らの案内で廊下を歩いている途中、ダリウスが話しかけてきた。

「どうせ付き合いは長くなるんだから、無理して慣れようとしなくていいよ。聞きたいことがあれば何だって答えてあげるし、わがままも少しくらいなら許されるぜ」

 雰囲気そのままの軽い調子の台詞にユーティアは困惑してしまう。

「ダリウス、あんまりユーティアに近寄るな」

 と、ギュスターがダリウスを睨みつけ、間に挟まれたユーティアはうれしいようなうれしくないような気になった。

「分かってるよ、そんなに怖い顔するなって。お前こそ、恋人がそばにいるからって、浮かれて仕事おざなりにするなよな」

 前を行くシルフがちらりとこちらを振り返り、ノーアは注意をする。

「ギュスター、ダリウス、お二人とも喧嘩はなさらないでください。ユーティアさんが可哀想ですよ」

 ダリウスが口を閉じ、ギュスターはユーティアに小さな声で「ごめん」と、詫びた。

「それにここは王族の住居なんだから、失礼なことはするな」

 と、シルフも二人を注意した。彼の第一印象は最悪だったが、意外と礼儀にはうるさい人らしい。

 階をひとつ下りたところですぐにその部屋にたどり着いた。上部に横長の四角いガラスのはめ込まれた立派な扉が目印だ。

 ノーアが取っ手に手をかけてゆっくりと扉を開く。

 清潔な白い床と壁が視界に飛び込み、ユーティアは一瞬我を忘れそうになった。

「お待ちしておりました」

 室内にいた背の高い侍女がそう言って頭を下げる。部屋に入ったユーティアは、きょろきょろと周囲を見回すばかりだ。

「彼女はメイリアス・バースン、あなたの身の回りを世話するメイドです」

 と、ノーアが彼女を紹介し、ユーティアはメイリアスへ向き直る。

「掃除洗濯、何でもいたしますので、御用があれば何なりと申してください」

 見たところメイリアスとは年齢が近そうだった。自分と同じ年頃の女性だと分かると、少しだけユーティアは気が楽になる。

「食事は毎回この部屋でおとりください。今日はまだ慣れないでしょうから、ギュスターを護衛係に、明日からこちらの決めた順番で護衛を始めさせていただきます。分からないことがあれば、近くにいる者にたずねてくださってかまいません」

 ノーアはそう言うと扉の方へ戻り、シルフとダリウスとともに礼をした。

「それでは、私たちはここで失礼させていただきます」

 と、三人が部屋から出て行く。

 残されたユーティアがギュスターに目を向け、侍女のメイリアスは二人を気にすることなく、彼女の荷物を取り上げた。

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