第2話 秘密の部屋

一旦職場に戻った二人は、春樹の知り合いの店に行く事になった。


その店は裏路地にある『Tabernaタベルナ』というお店だ。


小さなお店で、二人が訪れた時には店内が既に満席になっていた。


「堂本くん?」


「何ですか、舞花先輩。」


入口で立ち尽くす舞花の背中を押しながら、春樹は返事をする。


「…いや、満席じゃん。入れないって」


「そんな間抜けな事はしませんって。とりあえず中に入って下さい。」


そう言われ、座る所の無い店内へと二人は入っていく。


「オーナー」


舞花の両肩に手を置き、更に店内の奥まで進もうとする春樹は、カウンター内にいたオーナーに声を掛ける。


「お?ハルちゃん!!いらっしゃい〜」


笑顔でオーナーは応対する。


「…ハルちゃん❤︎」


「うるさいですよ」


生意気な後輩、春樹は舞花に対して遠慮も無く答える。


「はい、これ使ってそこから入っていって」


カウンター内からオーナーの腕が伸び、その手にはどこかの鍵が握られていた。


「…あ、あと、ゴメン。急ぎだったから『盆栽』しか用意出来なかった。」


それを春樹は「分かりました、ありがとうございます」と言って受け取る。


「はい、舞花先輩、行きますよ?」


「…何処に?」


舞花と位置が入れ替わり、舞香の前に立った春樹は、舞花の手を握って前に進み出した。


狭いお店の中を真っ直ぐ歩くと、突き当たりに扉が二枚あった。


一つは『WCトイレ』と書かれている。その隣の扉に、春樹はオーナーから預かった鍵を挿した。


「秘密の部屋ですよ」


来店客が見ているのに、秘密も何も無いだろうに、春樹は楽しそうに笑う。


その扉を開くと、すぐに階段が現れた。


手を引かれながら、舞花はその階段を昇った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る