小さな桜の木の下で

ヨル

第1話 仲間外れな二人

「ありえなく無い!?」


高速道路を走らせている営業車の中で、助手席に座る佐倉舞花は叫んでいた。


「まぁまぁ。誰かが犠牲になる時もありますよ」


そんな彼女を宥めているのは、運転手でもある後輩の堂本春樹だ。



今日は、職場全員参加の『花見』をする予定になっていた。


嫌々参加する社員もいる中、舞花は開催される花見を楽しみにしていた。


花見に参加していれば、社長から豪勢な『花見弁当』が配られ、営業部長からの差し入れは、普段自分では手を出せないような『お酒』だ。それが飲めたのだ。


それにも関わらず、運の悪いことに取引先からクレームがついた為、担当である舞花と春樹は夕方より会社を出発する事になった。


クレーム対応をし、取引先から出発出来たのは18時を回っていた。


花見は既に開始されている。


そして必死に車を走らせようにも、到着する頃には『宴もたけなわ』な状況だ。


「あァァ…っ!!…豪華花見弁当…」


「何か…『花より団子』って、先輩の為の言葉ですね」


後輩のくせに、春樹は舞花に笑いながら、中々酷いことを言う。


「だって、料亭花菱のお弁当だよ!?5000円はするんだよ!?年一の楽しみなのにぃ…」


「そんな舞花先輩に朗報」


舞花の嘆きを未だ笑いながら、春樹は言う。


「…何よ」


「営業部長から『御厚志ごこうし』を頂戴致しております」


春樹はそう言うと、胸ポケットから白い封筒をゆっくりと引っ張り出した。


その手を舞花はガシッと掴んだ。

そして、叫んだ。


「ありがとう!!最高!!部長!!」


「…俺は部長じゃないですからね」


春樹の呟きは、浮かれた舞花の耳には届かなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る