第3話 和食の板前さん

階段を登りきると、下の店舗部分と同じ広さのフロアが現れた。


そして、そこにはアイランド型のオープンキッチンと、そのキッチンの正面に長方形のダイニングテーブルセットがワンセットだけ置かれていた。


「いらっしゃいませ。」


オープンキッチン前で出迎えてくれたのは、和食のコックコートを着用した板前さんだ。


「今日はすみません、ありがとうございます」


春樹は笑顔で挨拶を返す。


「ハルちゃんの頼みだからね。」


板前さんはそう言うと、春樹の二の腕を軽くポンポンと叩いた。


「…ハルちゃん❤︎」


「…もう、舞花先輩、くどいですよ」


からかってくる舞花に、春樹は少し不貞腐れたような顔をしながら、舞花を席に案内した。


春樹が椅子を引いてくれたので、舞花はその席に着席する。


そしてテーブルには和食、会席料理がズラリと並んでいる。


「本来であれば先付から順を追ってお出し致したいのですが、中居を連れてくる事が出来なかったので、申し訳ありませんがまとめてお出ししております。」


板前さんは頭を下げて、謝罪する。


「いえ、こちらこそこちらまで足を運んでもらってありがとうございます。」


春樹は座ったまま、小さく頭を下げる。


「温かいうちにお召し上がりください。」


笑顔で食事を促す板前さんは、とても自信ありげに胸を張ってそう言った。


「美味しそう」


「では、ごゆっくり。私はこれで…、失礼致します。」


そう告げて板前さんはその場を去り、その時から二人きりの空間になった。

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