62・言葉にならない気持ち

第62話

「まだ離婚・・なんて言ってるのか」

「そうよ!だって私…佳彦に提出しておいてって言って出て行ったでしょ!」


佳彦に離婚届を任せてこのマンションを出て行った。


「俺が何の為にお前の部屋をそのままにしてるか分かるか?」

「えっ?」

「俺が何の為にお袋達に帰省してもらってこうやってお前と部屋で過ごしてるか分かるか?」

「分かるかって…」


そんなの好きでもない女性にはしない佳彦。

そんな事言われたら信じてしまいそうになる。


「佳彦、私の荷物片付けないと他の女性呼べないよ?」


冷静を努めて佳彦の気持ち考えたくなくって。


「華!お前が…俺はお前が…」

「……っ」


佳彦がその続きの言葉を言おうとした時に着信が鳴り二人でビックリしてしまった。


「…高畑か。華、先に寝ていてくれ」

「佳彦…」

「今の俺は冷静じゃないから」


佳彦は、鳴っている電話を握って寝室から出て行った。

律儀に電話に出る事は佳彦らしいと感じるけど話し合ってる?最中に電話に出なくても良くない?


「なんか段々腹が立ってきた!」


その勢いのまま私も寝室を出てリビングに向かった。


「佳彦!」

「ビックリしたっ!華、何だよ」


拗ねてる佳彦はさっきの佳彦と同じ。


「私と話し合い中だったでしょ?電話に逃げないで」

「…逃げてる訳じゃない。俺はお前と冷静に話し合いたいのに…」

「のに?」


佳彦が携帯をテーブルに置いて私を手招きするからそれに従った。


「俺は、お前が思うほど…カッコよくないんだよ」


私の腰に手を回して抱きしめてる佳彦は顔を下に向けてそう言った。


「ちゃんと仕事、部屋だって綺麗だし」

「そう言う事じゃない」


佳彦がもっとキツく私を抱きしめる。


「俺は、お前…華が居ないと何も出来ない」

「……っ」


佳彦、今何て言ったの?

私の聞き間違え?


「佳…彦?嘘はやめて。…私を喜ばせようとしてる嘘でしょ?」

「嘘じゃない!俺は華が必要なんだ!」


ガサっとポッケから出して私に無言で渡す佳彦の手には紙。


「これは何?」

「……」


無言で渡すから私は黙ってその紙を開いていく。


「!!」


折り畳まれて跡がついてるその紙に涙が出そうになった。


「…して?コレがここに?」

「俺は最初から反対していただろ!」


言葉にならない気持ちでいっぱいだよ…

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