56・お呼び出しです

第56話

こんなに嬉しい事はない。


「課長ーっここの印鑑頂けますかー?」

「課長ー」


課長の席に佳彦が座っていて何か違和感がある。

でも、きっとすぐ慣れると思いつつ仕事に向き合う。


「華ちゃん」

「野山さん!おめでとうございます!」


野山さんが私の所に来て話しかける。


「華ちゃん、今日空いてる?」

「今日ですか?ごめんなさい。佳彦の両親が帰省していて…」

「わぁー…あのご両親来てるの?」

「…?はい」


野山さんも引き攣った顔をした。


「俺、あのテンション高いの無理なんだよね。野々は佳彦のお母さんと馬が昔から合わないし」

「……」


佳彦が言っていたのは本当の事だったらしい。


〔華は親孝行もんだ〕


ふふっ…嬉しい。


「華ちゃん、嬉しそうだね」

「はい!嬉しいです」


笑顔で野山さんに答えた。


「欲しいな…華ちゃんが」

「?野山さん?何か言いましたか?」

「ううん。佳彦の両親が帰ったらディナーに誘うよ」

「…あっ、はい。すいません」


野山さんは手を振って自分の席に戻って行った。


「野山さんとラブラブな感じを醸し出している沢井華さん?」

「はい?何でしょうか」


智子がよく分からない言葉を私に伝えて来た。


「ラブラブな雰囲気でしたよ。課長が凝視しておりました」

「!!えっ?マズイよね?」

「私は〜知りません〜」


智子は言うだけ言って逃げた。


〈薄情者!〉


小声で智子に伝えたら課長がこっちに向かって来たから慌てて仕事に向き合う。


「……」

〈後で第二会議室へ〉

「……はい」


佳彦はそう言って去って行った。

メチャ低ーい声で言われたから背筋が凍った。

智子がまたニヤニヤして私の所に来た。


「課長の呼び出しあった?あった?」

「…ありましたよっ!まぁ、仕事関連ですけどね」

「…なーんだ。私はてっきり野山さんと華の会話に嫉妬・・した課長が呼び出したって思ったのに」

「……!!」


智子、侮れない。

半分当たって(呼び出し)半分外れてる(嫉妬)。


「嫉妬って何でそんな事する必要無いでしょ?」

「もしよ!課長が華の事“好き”なら嫉妬するでしょ?華だって好きな人が他の女と楽しそうに話していたら嫉妬しない?」

「…するけどきっと違うって思う」

「なんで素直じゃないんだー!」


素直じゃない私なんですー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る