4・言及、追及…しない…

第4話

「佳彦…じゃない。部長、戻りますのでその手を退かして下さい」

「華が答えてからだ」


部長佳彦が扉に手をかけてるから出れない。

『答える』って何を…?


「…元夫・・に話す必要なんかありません」


今だって喉元まで言葉が出てるけど飲み込む。

野山さんとの事話したい。

私の言葉信じないでって無理ね…。


「そうか。俺も元妻・・にこれ以上言及はないよ。…沢井さん、いつもの所にお願いするよ」

「…はい」


ガチャと佳彦は開けて先に部屋から出て行った。


「ふっ……」


視界が滲みポタポタと床に雫が落ちる。

それがだと気付いたのは自分が笑ったからだった。


「アハハ。馬鹿ね、私って」


素直になれない自分に情けなくなる。


「失礼〜」

「あっ!」


野山さんが入って来て涙姿を見られた。


「華ちゃん!?どうしたの?!」

「野山さん…何でもないですっ」


慌てて涙を拭いて部屋を去ろうとした。


「華ちゃん!」

「!!」


次の瞬間に野山さんの腕の中に入り知らない香りが私の鼻をくすぐる。


「佳彦だろ?!我慢しなくて良いから!」

「野山…さん…」


ギュッと抱きしめられた腕の中は違和感たっぷりですぐにでも離れたいから離れる。


「野山さん、ありがとうございます。大丈夫です」

「華ちゃんはすぐ我慢するから、心配だよ」

「心配して下さってありがとうございます」


野山さんと会議室から出たら佳彦が仁王立ちしていて睨んでいた。


「何をしていた?沢井さん。悟」

「何もないよ。強いて言うならお前が悪いな」

「俺が?何で」


佳彦が側に来て一瞬だけど顔を歪めた。


「沢井さん?どう言う事?」

「どうって…」


抱きしめられたには抱きしめられたけどソレも

元夫に言うつもりは更々ない。


「私、仕事がありますので失礼します」

「沢井!」


部長がまた呼んでるけど無視して自分のデスクに行き営業で行く所を確認する。


「はぁー…」


同じ部署で離婚してからこんなにやり辛いなんて思わなかった。

智子が書類を持って私を横切る時に私に聞いてきた。


「華、野山さんの匂いがする…?」

「あっ、うん。転びそうになった時に助けて貰ったから多分それで匂いがついたんだと思う…」

「そうなんだ」


笑って誤魔化して智子は「ふーん」と言って去って行ったからホッと胸を撫で下ろした。

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