86・久しぶりに見る我が子

第86話

日々少しずつ回復していくティスだけど血を吐く事は変わりなかった。


「ティス、リン王子に言わない?」

「言わない。それ以上心配させたくないの」


ハイアは、ティスが血を吐く度に心を痛めていてリンに何回も言おうと思ったけどティスが“それ”を望まないから言えなかった。


「薬湯の時間よ。飲める?」

「飲むわ…ゴホッ、ゴホッ」

「ティス!」


ハイアが背中をさすってティスは心を落ち着かせる。


「テリーは、どう?元気してる?」

「してるわよ。少しずつ声を出してるわ」

「そう。早く抱きたい」


抱く力も今ティスにはない。


「ティス、容体はどうだ?」

「リン様、少し良いです」

「顔色が悪い。大丈夫か?」

「はい。リン様は平気ですか?こんな所にいて」


書類がひと段落するとこうやってティスの顔を見に来るリンに少しでも休んで欲しい気持ちはあるのにそれを拒否するリン。


「食事会だけどティスは無理禁物だ。俺も欠席するから一緒に夕飯食べよう」

「ダメです!リン様!ちゃんと出席して下さい」


少し起き上がったけどクラッと目眩がしてリンは慌ててティスを受け止める。


「ティス!無理はダメだと言ったろ!」

「リン様、出席が王家のしきたりです。私は平気ですから」

あるじ、出席が基本です。王妃様ティス様は、我々がキチンと護衛します」

「…分かった。ティスは無理しないと誓え」

「誓います。楽しんで来て下さい」

「ティス、終わり次第来るから」


渋々出席する事にしたリンティスの頬にキスを落として執務室に戻って行った。


「申し訳ないわ。体が不自由過ぎて…」

「リン王子の言う通り。ティスは体を治すだけを考えて!」

「分かったわ」


ティスは、ハイアとリンの言葉を守る事にしたけどひとつだけ我儘を言いたかった。


「ハイア、テリーを連れてきて?」

「連れてくるわ」


ハイアに頼んでハイアはテリーを連れて来てくれてティスは、久しぶりに見る我が子に心が踊った。


「あぁ、私の可愛い子。大きくなって」


大きな目でティスを見つめている。

目も髪もリン譲り。鼻はティス似で、両親の良い所をそれぞれ受け継いでいた。


「テリー、私の可愛い子。いい子ね」


テリーに手を伸ばしたらティスの手を握った。

久しぶりに笑った気がした。

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