58・偶然に会って…

第58話

「カルティロス王子が下働き場所に来るなんて」

「本当に、ラッキーだったわ」


他の下女達がざわめいていた。


「ランティスは見なかったのか?」

「えっ?はい。興味ありませんので…」


興味・・がないと言っておかないとうっかり口が滑りそうになる。


「そうか。ティス、お疲れさん」

「あっ、はい。お疲れ様です」


ティスの仕事は、朝と昼の皿洗いだけで夜はしなくても良い事になってる。


「王城の庭を見に行って良いって言ってたから行って見よーと」


そう思って王城の庭に向かい途中、貴族らしき

人達が通るから端に寄り通り過ぎるまでお辞儀をするのを何度も繰り返して庭に着いた。


「わぁ、綺麗」


色取りの花達が咲き誇ってどれも綺麗で足元を華やかにしてくれる気がした。


「あらっ?先客が居たのね」

「あっ!失礼しました!」


見るからに高貴な人物で何処か見た事あると思ったティスは、思い出した。

自国コウラサンで見たリンの王妃候補者で婚約者として噂されているカスロイル・アン・ウィンアだった。


「大変申し訳ございません。すぐに退きます」

「あらっ、いいのよ。花達は皆の物ですもの。

そうですわよね?カルティロス王子」

「えっ?」


カスロイル嬢がティスの向こう側を見て名前を呼んだ。


「そうですね、カスロイル嬢」

「!!」


慌てて後ろを振り返ったらリンがもう後ろにこちらに歩いて来てティスの心臓が早鐘する。


「カルティロス王子様、失礼しました」


慌てて頭を下げた。

まさかここで会うなんて思わなかったティスは動揺していたけど、リンも動揺していたのをティスは知らない。


「カルティロス王子、綺麗な花達ですわ」

「そうですね、綺麗・・ですね」

「誰にも気付かれずに閉じ込めたいですわ」

「えぇ。本当に、そう思います」


リンは、ティスの目を逸らさずにそう言い続けたからティスの顔が真っ赤になっていく。


(ティス、勘違いよ!リン様に嫌われているんだから)


自分でそう言い聞かせてもリンが目を逸らさないからティスが先に逸らした。


「カルティロス王子様、カスロイル様、失礼します」

「待って!名前は何?」


去ろうとしたらリンに腕を掴まれたティス。


「ランティス・ヒョウと申します」

「ランティスだね」


ティスは、お辞儀をしてその場を後にした。

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