54・見つかったよ…

第54話

ティスは、目が覚めて慌てて飛び起きた。

義母と姉に怒られると思ったからだ。


「申し訳…って…」


見慣れない場所に一瞬思考が停止して自分は夜中抜け出して来たんだと思った。


「今は…夜?」


ここの宿屋に着いた時は明るかったはずだけど

疲れ過ぎて夜まで眠っていた。


「お腹…空いた…」


部屋に鍵をかけて下に降り、一階は食堂らしく

賑わっていた。


「あぁ。起きたかい?ノックしても出なかったからよっぽど疲れてんだなって思ったよ」

「すいません。今まで寝ておりました」

「いいんだよ。妊婦は寝てこそだよ!」

「!!」


見る人が見れば分かるのだろう。


「赤ちゃんの為に栄養を沢山摂りな」

「はい。ありがとうございます」


ふくよかな女将さんに励まされてティスは心が

暖かくなる。


「カルティロス王子が婚約者引き連れて戻ってくるからめでたいねー」

「えっ?」


また思考が停止した。


(リン様が婚約者を連れて帰ってくる?)

「伯爵家筆頭だから秒読みだろうね」

「めでたい」


近くのテーブルからも“めでたい”と祝いムード

だった。


「顔色が悪いよ。吐きたいなら吐いて構わない」

「…ありがとうございます」


吐きたくても吐ける物がない。

リンの事に動揺している自分に叱咤するけど冷静が取り戻せない。


「ちよっと空気にあたって来ます」

「はいよ。気をつけるんだよ?」


ティスは、立ち上がってフラフラしながら外に

向かった。


「リン様が婚約者を連れて帰ってくる」


お腹を撫でる。


「あなたのパパが自国に帰ってくるわ」


胸が締め付けられてギューと痛い。

会いたいと願ってる人に会えないつらさはこんなにも辛いものだと思わなかった。


「さぁ、中に戻りましょ。赤ちゃん」


お腹を撫でて食堂の中に戻ろうとした。


「ティス?」

「えっ?」


振り向いたら約束を破ってしまった一人に見つかった。


「一緒に手伝うって言ったじゃない!バカ!」

「貴女を巻き込みたくなかったの」

「バカ!ティス!!」

「ハイア!!」


抱きしめられて涙が溢れて来た。

止めていた涙が止まらない。


「会いたかったわ!ティス!!」

「私もよ。ハイア!!」


ハイアに会えたら急に体が力が抜けて気が遠くなってしまった。


「ティス!!」


「会えて嬉しいわ、ハイア」と思った。

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