52・胸が少し痛んだ

第52話

「ランティス!早く脱がせない!」

「はい!!」


脱がせてドレスを踏みつけ靴の跡が後から付いていく。


「マリーサのドレスなんて要らないわ!舞踏会、勝手に行けよ!」

「ラリーネ様!!その辺で…」

「アンタ!」


姉の癇癪かんしゃくに触ったティスは頬を叩かれた。


「ラリーネ!君は妹になんて事してるんだ!」

「マリーサ!!どうしてココに?」


この空気は悪い方によどんでいる。


「ラリーネ、君の本性を見抜けなかった自分が悪い。婚約破棄しよう」

「マリーサ!待って!」

「ランティス、頬は大丈夫かい?」


マリーサがティスの頬に触ろうとしたからティスは慌てて手を払い退けた。


「申し訳ございません!マリーサ様」

「大丈夫だよ。ランティス」


姉は、マリーサの方の腕に縋った。


「マリーサ!ゴメンなさい!破棄なんて言わないで」

「ごめん。父上に言って正式に破棄してもらうから」

「ランティス、君は頬を冷やそう」

「あっ、はい…」


マリーサに言われて部屋を出る。


「マリーサ様!ラリーネは、そんなつもりではなかったのです!」

「お義母様がちゃんとしつけてればこんな事にはならなかったかもしれませんね」

「…マリーサ!!」


二人の悲痛な叫びは扉でシャットダウンされた。


「ランティス。さぁ、冷やそう」

「あっ、はい」


マリーサに手を差し伸ばされたけどその手を取りたくなく敢えて見なかったフリをした。


「ランティス、君はもう心に誓った男性がいるんだね?」

「マリーサ様…。はい」


誠実であったマリーサに嘘は付けないと思って

マリーサの目を見て逸らさずに言ったらマリーサの方が目を逸らした。


「君は強くなったね」

「マリーサ様、ゴメンなさい。でも、ありがとうございます」

「あはは。振られちゃったよ」


マリーサは笑って手を差し出したからティスは

最後だと思って手を伸ばしたらマリーサの腕の中に入った。


「マリーサ様っ!!」

「最後だから。もうこの家には来ないよ。君の元にもね…ティス」


付き合っていた頃呼ばれていた名前・・に何処となく違和感を覚える。


「自分勝手だと思うよ。君を選んでいれば」

「もう、そんな事はあり得ません」

「そっか。さよなら、ティス」

「はい。さよなら、マリーサ様」


ティスは、少しだけ心が痛んだけどほんの少しだけだった。

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