36・優先順位

第37話

「白鳥家との結婚は井口家にとっても良い合併にもなる。貴女はそれ以上の価値はあるのか?」

「………」


何も言えない。

家柄も普通で一般庶民の私が雅之をこれ以上高める価値なんて何処にもない。


「では、雅之様と金輪際こんりんざい近付かないと署名をお願いします。小切手です」

「それは要らないと雅之さんのお父様にもお伝えしました」


私は今日休みだからきっと遅くなる雅之の為にと思って食材を購入しに行こうと思っていたその

矢先に雅之のお父様の秘書の方が訪問して来た。


「子供2人と生活はなにかと大変でしょう。好きな金額書いて下さい」

「……」


金額で何とかしようとするこの哀しさ。

私の意地がココで発揮する。


「書きました」

「0円?ふざけているのですか?」

「ふざけてません。要らないと伝えたはずです」


秘書の方は文句をブツブツ言いながら小切手も

しまって私の署名に間違いがないか確認して

それもかばんにしまう。


「では、ココも近い内に出て行って下さい。愛羅あいら様が引っ越してこられます」

「……分かりました」


秘書の方は全てを言い切って部屋から出て行く。


「………っ」


短い間だった。

雅之と恭一と私と3人の短い半年もない生活。


「雅…之…。私、署名しちゃった。ごめんね」


貴方の幸せを優先させたかったの。

貴方の足枷あしかせだけにはなりたくなかった。


「また、逃げるの?真弥」


ガラステーブルに映る自分に自問自答する。


「逃げね、私意気地無しだから」


泣いて笑って答える。


「自分が結局の所可愛いの。恭一の“せい”にしてこれ以上自分が傷付きたくない。」


私に一つでも何か持ってればよかった。

雅之に役立つ何か一つ。

でも、昔から持ってないのにそんな私を愛してくれて子供まで授けてくれて私はもういいの。


《もしもし、恭一を明日までお願いします。明日の朝迎えに行きます》


シッターさんに電話して雅之の帰りを待つ。


雅之、何も言わずに何も感じず私を迎えて。

そしたら私は生きていかれるから。

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