第32話

「アハハ、違う違う!2人で屋上でしゃべってたら想像以上に時間が経っちゃっただけ!ってか、それより優樹も一緒に帰らない??」




「あっ…うん…俺はいいけど……いいかな?菊地さん、俺が入っても」



優樹君は今度は満面の笑みを私に向けてきた。





…そんなの…





だめなわけない。




むしろ入って欲しい位だ。




私は何度も首を縦にブンブンと振った。




「そっか。よかった。じゃあ帰ろうか。蘭、菊地さん」






「…ちょっと待ってよ…」





私と優樹君は、すっかり3人で帰ることに納得し、靴を履き替えようとしてた所だった。




…蘭ちゃんが言葉を発したのは。




「…どうしたの?蘭ちゃん」


「どうしたんだ?蘭」




私も優樹君も意味が分からなくて口々にそう言う。


でも、蘭ちゃんは続ける。




「おかしくない!?美穂ちゃんだって私のこと『蘭ちゃん』って呼んでるし、優樹だって私のこと『蘭』って呼んでるくせに、何で、それが相手が美穂ちゃんや優樹になると、名字で『さん』や『君』づけなの!2人共、幼なじみ同士なんだから名前で呼び合いなさい!」




「…でも…」




「…そんなこと言われたってなぁ…」




私は返す言葉がなかった。




優樹君と幼なじみなんて、はっきり言って、小学校低学年の頃位から考えたこともなかった。



でも、確かに幼稚園、小学校、中学校、高校と一緒なら幼なじみと言えるのかもしれない。




…でも、だからって、そんないきなり名前で呼べって言われても…





優樹君も返す言葉がないらしく、黙り込んでしまった。





「いいから!早く!はい!」



蘭ちゃんは、そう急かすように言う。





恐らく、蘭ちゃんが言った「はい!」の意味は「いっせーのーで!」と同じ意味で2人で一斉に言えって意味なんだろうけど、私も優樹君も言えないで、お互いの顔を見合った。




「ほら!早く!はい!」



何も言わない私と優樹君を見て、蘭ちゃんは、もう1回急かすような言い方で言う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る