5.難関を越えていって……

第5話

「こんにちは。トゥリーネ・ロータさん。私は、リサンナ・トゥイントゥルよ」

サンの昔からの友人であろうと思う綺麗な女性に自己紹介されました。そして、舞踏会の事まで。

「綺麗に成長したのね。舞踏会はこれからかしら?」

その日は、警備に就くまで言われてしまいました。

「その日私たちは警備につくのよ」

「私たち?」

「そうよ。私たち部隊はその日舞踏会の警備なの」

サンは副団長でリサンナさんはサンと同じ部隊に居る事に心が凍りつき決定的な事を言われてしまう。

「サンの事が私は好きなの。身分も伯爵同士釣り合ってるのに!!」

「好きと告白したら…どうですか?」

憎い恋敵に何て事を言っているんだろうか?

でも、これしか言葉が出てこなかった。

私だってサンが好きだ。

「これはなにかしら?」

「!!」

リサンナさんの手にあったのは18本の花束。

私の好きな花達。

「どうして、リサンナさんがそれを?!」

私とサンとの秘密だとずっと思っていた。

「16歳の時に贈らなかったでしょ?その日、サンと一夜を共にしたの」

その後に聞いちゃいけない、聞きたくない言葉が耳を貫く。

「もう、サンは私の旦那になるのよ?」

「……嘘っ」

涙でリサンナさんが滲む。

「嫌っっ」

その場から逃げ出してしまった。

「嘘っ!!嘘っ!!」

16歳の時に心を傷つけられてそれでも信じてそして18歳でさらに心を抉られてなにを信じて良いかもう分からない。

「…ネ」

「はっ!!ごめんなさい」

湖の所で2人ベンチに座っていた。

「聞いてたか?」

「ごめん…聞いてなかった」

本当はこうやって2人で会ってはいけない。

リサンナさんのだもん…涙が流れそうになるけど頑張って止める。流しちゃいけない。

流したらこの腕が…サンが…私を包む。

(この人は…リサンナさんのもの…)

それを問い詰めるのも聞くのも私にはそんな資格無い。握り拳を作ってサンの言葉に耳を傾ける。

「…リーネが16歳の時に騎士副団長に任命されて、獣の討伐に行かなくちゃならなくなった」

「えっ…?」

ビックリして涙が引っ込んで握り拳も解いてサンの隊服を掴んでしまった。獣の討伐?どう言う事?

「リーネの誕生日前々日から討伐準備が始まって」

「大丈夫だ」と笑いながら私の両頬を包む。

「サン…」

「あの時言えなかった。だから16歳の誕生日

『おめでとう。リーネ』」

あぁっ…この男の人はいつでも私を想ってくれてのに、どうして私はこんなに弱いのだろうか。

涙が溢れてしまった。

「泣かないでくれ。リーネ」

そう言って私の両目にキスを落とすサン。

「抵抗しないんだな?」

「抵抗…するけどっ?」

ニヤリと笑って意地悪な事を言ったから精一杯の嫌味で返した。

「抵抗するなら…」

「えっ?」

両頬を包んでいた両手が私の腰を引き寄せて腕の中に入れていく。

「サッ…んっ…」

サンと初めてキスを交わす。

「んっ…」

初めての愛おしい人との口づけ。抵抗なんて出来ない。だって愛おしい人。

「サッ…ンッ…」

「リー…ネ」

色っぽい声で唇のうえで囁かれて体がゾクっとして熱くなる。

「リーネ…」

サンと手を絡めて角度を変えてキスを交わしていく。

「んんっ…」

急に口の中に舌が入ってきてビクッとして逃げようとしても逃げれない。

「サンッ…」

サンの力強いけど優しい腕の中から出たくないけどふっと我に帰った。

〔もう、サンは私の旦那になるのよ?〕

「サン!やめてっ」

キスを拒んだ。キスなんてしちゃいけないのに。どうしたらいいの?どう言い訳……ううん潔く謝ろう。

「リーネ?」

「サン、離して。リサンナさんに顔向け出来ない」

「リサンナ?どうしてリサンナの名前が出る?」

「えっ?だって…」

言えないよ。旦那になるんでしょって…口から言ったら涙が出ちゃう…。

「サンッ」

またヒョイッと持ち上げられて膝の上に乗っかった。

「!!」

「さぁ、言ってもらう」

「この格好いやっっ。何で騎士副団長の膝の上に乗ってるの?私……」

ガッチリホールドされてしまっていて騎士副団長の座に着くサンロシスト・スゥーカ伯爵の膝の上にトゥリーネ・ロータ男爵ですよ……何の試練ですか?別の意味で泣きたくなるのを我慢する。

「16歳の時に……」

「16歳の時に…?なんだ?」

言って良いのだろうか。告げ口してるんじゃないだろうか?

「リーネ…お前の不安を取り除きたい」

「えっ……?」

私はいつの間にか気付かない内に震えてサンの隊服を握り締めていた。

「ゆっくりで言いよ。リーネの不安全て受け止める」

頼っちゃいけないのに頼りたくなる。

11歳の時の事も順番に謝りたい。

「…ごめんなさい…」

「?…あははは。それは11歳の時の謝り?」

「そうよっ」

サンが私の顔を見ながらそう言ったからどうして分かるのか目を丸くしてビックリしてしまった。

「後は?」

「クッキーも……手紙も……書きたかった。焼いてあげたかった…」

震えてるのを自覚してるからサンの隊服から手を離したらその拍子でサンが手を繋いで来て絡めた。

「この方がいいな。俺は」

「〜〜っ」

嬉しそうに幸せそうに笑っていうサンに何も言えなくなってしまった。

「欲しかったなぁー。手紙もクッキーも」

「ああっ。すいませんね!!あげれなくって」

可愛くない言い方は分かってるけどサンは受け止めてくれる。

「18歳になっても変わらなくってビックリだよ」

「……っ」

昔から変わってない?

サンにとっては私は18歳でサンは25歳の大人だけど、11歳の子供と同じって事?そう思われていると思って不安が募った。それが顔に出ていたらしくサンが「ふっ」と笑って私の頬を摩り笑う。

「そして…綺麗になった」

「……っ」

受け止めてくれる。この男性は全部受け止めてくれる。そう思ったら体が勝手に動いていてサンの首に手を回して抱きしめる。

「サンッ…サン!!」

「なーに?リーネ。リーネ」

愛おしい男性の名を呼ぶと愛おしい男性が私の

愛称を優しく愛おしく呼んでくれている気がするから私は聞きたい事を聞こうと決めた。

「……16歳の時、リサンナさんと…その……一夜を共に……したの…?」

「…?あぁっ」

ああっ…心臓に亀裂が入った音がする。

「そうっ…」

腕を離そうとして体が冷えていくのが分かってるのに体が動かない。サンが次に言葉を紡いで止まった。

「リーネの誕生日の日に獣達を倒していたから他の団員達も一緒だぞ?お前、さっきの話聞いてなかったのか?」

「へっ?」

間抜けな声を出してしまった。先程、サンは討伐準備がなんとかって言っていた事がスポーンとお空の彼方に投げられて『おめでとう』が嬉しかったから忘れてしまったと思いたい。

あれっ?私の勘違い???あれっ??

「後は?」

(じゃあ、『旦那』になるのも嘘?)

ギュッと力がこもってしまったのだろう。

サンが気付いてため息をこぼした。

「!!」

「お前はいつから俺に気を遣う間柄なんだ?」

「…親しき人にも…」

「そんなん知らん。俺とリーネだぞ?それもと何か?リーネは街中でヨーク・テントリオと楽しそうに歩いているのに俺に抱きついているのが同情か?」

「はぁっ?」

ベリっと体を離してサンの目を見た。

「どうして、ヨークの事を知ってるの?そしてフィーネルも居たわよ」

「どーだか」

フンッとサンがそっぽを向いたからその行動に腹が立ったから私はサンの頬をつねった。

「痛っ、なにすんだよ」

「サンだって!!リサンナさんの旦那様になるから6年会ってない生意気な女をとりあえず膝の上にな感じでしょ!!」

言ってやったわよ。言っちゃったわよ。親しきなんてクソくらえよ。

「旦那って誰が?」

冷静に言うサンに更に腹が立った。

「サンがリサンナさんの旦那様によ!!」

「召使い的な?」

「あっー。ムカつく!!リサンナさんが妻。

サンが夫でしょ!!」

詳しく言ってやたんだから離してよね!と睨んでやったのにキョトンとした顔して腹が立つ!!

「ちよーと待て」

「はいっ!?」

もぉ、怒りが頂点すぎてんだから離してよね!!と再度睨んでやった。

「俺はリサンナを妻にする気はない」

「はぁっ?!じゃあ、リサンナさんが嘘ついたって事??」

「そうだな。なんでそんな嘘ついたか知らんがな」

「えぇぇぇっっっ………」

気が抜けてポフっとサンの胸の中に入ってしまって震える手で隊服を掴んでしまった。

「良かった〜〜。サンがまだ誰のものじゃなくって…」

私の小さな小さな言葉にサンも小さく呟く。

当の私は聞かれてるなんて思いも寄らなかった。

「俺はリーネのもんだよ」

「?何か言った?サン?」

頭上から何か聞こえたから頭を上げてサンを下から見たら私のおでこにサンの顎が乗っかる。

「不安なら受け止めてやるから」

「分かったからそれやめて」

サンの意地悪な態度は変わらなくって安心する。そして、ちゃんと挨拶を言ってなかったと慌てて気付いて姿勢を正してサンの顔を見るとサンも私を見る。

「おかえりなさい、サン」

「ただいま、リーネ」

2人で笑いあった。

「18歳おめでとう」

「ありがとう…」

18歳と言われてリサンナさんが花束を持っていた事は言わない事にした。これ以上サンに心配をかけたくない。これ以上、リサンナさんと仲を悪くしてほしくなかったけど私の態度を見てもう分かってるだろうけどサンは何も言わないから私も、言わない事にした。その件で2人が既にもうやらかしてる事は私の耳には入ってこなかった。

「18歳の時に舞踏会があるだろう?」

「うん。王都主催の舞踏会でしょ?行くけど…」

「リーネの誕生日プレゼントはドレスと宝飾品」

私の髪の毛をサラッと触って一房にキスを落とす。

「!!」

「きっと世界一可愛い」

うっとりしながら言うサンの表情は色っぽかったけど言葉は素通りしなかったわよ。

「サン!!ちよっと待って!ドレスと宝飾品プレゼントってどういう事?」

「そのままの意味。18歳の誕生日は舞踏会のドレスと宝飾品って決めていた」

「そんなっ…」

いつも通りの花束でよかったのに…と思っていたけどリサンナさんと一緒に選んだであろう花束は欲しくなかった。

「楽しみにしてる」

「サン!」

ドレスだけじゃなく宝飾品もって…。

「豚に真珠じゃないか?」

「豚って…ほんと意地悪!!激辛クッキー焼いてやろうかしら?」

ニヤリと笑ってそう伝えると「全部完食してやるよ」とドヤ顔で笑って言った。こんなサンとのやり取りは大好きだからいつまでも続いてほしいと願う。

「!!」

お尻辺りに固いのがあたる。

「んんっ??」

「ヤバい……」

サンが顔を隠す。

「サン?お尻に固いものが…ごふっ」

言ったら口を塞がれた。

「それ以上は恥ずかしいし、男のメンツが……」

「……?」

恥ずかしい?男のメンツ?何を言ってるか分からなかったけど、サンが私を隣に降ろして

「はぁ〜」とため息をつく。

「まぁ、愛おしい女性だしな」

「カルト!!」

「……?」

急に横から男の人の声が聞こえてきてそちらを向いた。

「わおっ。本当に綺麗だな」

「……?」

綺麗って誰の事だろう?この男の人まさか他に女性が…幽霊的なモノが視える人??って顔をしてたのだろうかその男の人は笑った。

「あはははー。サンが心配する気持ち分かる」

「カルト、何しに来た?」

「まぁまぁ、副団長。お嬢様、俺はカルト・

サンマーリ」

「ご丁寧なご挨拶ありがとうございます。

トゥリーネ・ロータです」

サンと同じ身分だろう。慌てて立ち上がって挨拶を返す。

「綺麗なカーテシーだな」

「さすが、リーネ」

2人とも褒めすぎて顔から火が出そうとパタパタと手で煽ってしまった。

「あっ、ごめんなさい」

「あははは。気にしなくっていいよ。サンとは

幼い頃から一緒だし、リーネちゃんの事は…ふがっ」

「?」

カルト様はいつの間にかサンに口を塞がれていた。

「カルト〜〜」

「副団長、怖ーい」

2人のやりとりは見ていて面白い。幼い頃から一緒だと先程言っていたからサンにとってはかけがえのない友人なんだろう。

「ふふっ…」

「?どうかした?」

「失礼しました。2人のやりとりが微笑ましくって」

「あー…天使っているんだな…サン」

「天使っていると思う。俺には女神だけどな」

「??」

また、2人で訳の分からない事を言ってる…。

身分は2人の方が上だけど入り込まない方が良いと直感で思う。

「サーン」

「!!」

後ろから甲高い声の女性がサンの腕を掴む。

「リサンナ。何処に居たんだよ。お前も探していたんだからな」

「ごめーん。『ゴミ』捨ててたのー」

「………っ」

胸をギュッと締め付けられる感覚がした。ゴミは花束だと思いたくないけど。本当にサンが用意したかも分からないけども、『ゴミ』と言われたモノが気になる。

「まぁ、いっか。団長が副団長とリサンナ連れて来いって言われてるから行くぞ。2人とも」

「ああっ。リーネ。またな」

「はいっ。お気をつけて。カルト様も」

「やはり天使だな」

「いーや!女神だ!!」

また、訳の分からない事を言い合ってるのを見て笑っていたらそれが気に食わなかったのかリサンナさんが隣まで来て耳元でコソッと言ったから体がビクッとしてしまった。

「『ゴミ』、貴女の家に送っておいたから。受け取ってね」

「リサンナ!行くぞ!」

「はぁーい」

それを言われて顔から血の気が引くのが分かる。『ゴミ』を私の家に?どうして?考えがまとまらない。

「リーネ?大丈夫か?」

サンが歩いていたのに私の元に戻って来てくれた。

「えぇっ。大丈夫だから行って?」

「後で聞く」

「言わないわよっ」

「いいやっ。後で聞く!!絶対な!」

「言わないって」

こんなやり取りもリサンナさんに見られていると分かっているけど心地よくてやめられない。3人の背中を見てから踵を返して家路に急ぐ。

「お母様!」

「リーネ、おかえりなさい」

急いで帰って玄関開けたらお母様が丁度ぐちゃぐちゃになった花束を持って火の着いている暖炉に投げ入れようとしていたから慌てて止めた。

「お母様やめて…」

「これはサンロシスト様じゃないわ!!」

「……知ってるわ。本人に教えてもらったから」

お母様からぐちゃぐちゃになった花束を受け取った。

「リーネ…サンロシスト様からのちゃんとしたプレゼントは…貴女の部屋にあるわ」

「ありがとう」

お母様は震えていてリサンナさんに何かを言われたのだろうか?私が傷付くと思って何も言わない。

「お母様、ごめんなさい」

「貴女が謝る事ではないわ。貴女がサンロシスト様を好きなだけなんだから」

「なっ……」

あれっ?お母様にバレてる??

「ふふっ…部屋に毎年の花束のドライフラワーしてれば気付くわ。サンロシスト様は気付いてなかったけどね」

「えっ?ここに!!部屋に来たの??」

「ええっ…。領地から帰ってきてすぐに手渡しで届けてくれたのよ」

お母様〜〜っっ。それを早く言って欲しかった。

そして、絶対バレてる……??いやっ、バレてる……。

「これは私が貰うわ。ありがとう。お母様」

「舞踏会、楽しむのよ?」

「はい」

トボトボと2階に上がる。足取りが重い。部屋を見られた事に恥ずかしくなる。

「はぁぁぁーー……」

絶対気づいてるよね?だってこの…扉を開けたら。

「??」

パタンッと扉を閉める。あれっ?今騎士服を着た男の人がベットに座っていた気がしたけど…。

「お母様…来てるって言ってないわよね?」

目がおかしかったんだなって思い目を擦ってもう一回扉を開けた。

「なんで閉めるんだ?」

「なんでいるの?」

見間違いでなかった。サンがベットに座って寛いでいた。

「いいやっ。おかしいでしょ?」

「おかしくないだろ?俺とリーネの仲…それはなんだ?」

「えっ?それって…?」

すっかりぐちゃぐちゃになった花束を持っていたのを忘れていてサンに問われた。

「これはっ…」

急いで後ろに隠しても遅かった。サンが立ち上がって私の元に来て壁際まで追い詰めた。

「さっきのだな?」

そう言われて首を振る。

「言いたくしたくなる事するか?」

そう言われても首を振る。

「そうか…」

そう言ってサンが壁に片手だけ肘までくっつけてもう片方の手を私の胸を触る。

「やめっ…サンッ…」

「じゃあ、言え」

「言わない」

「なら、続きだ」

サンの手が胸の輪郭を撫でる様に触れていく。

「んっ…」

胸なんて感じないって思ったのに声が出てしまった。

「まだ言わないか?」

サンの手が更に胸を持ち上げて揉んできた。

「やっ、言うからやめて」

「俺が無理」

花束をバサっと後ろで落としてサンを押すけど両腕を阻止されて壁に縫い付けられた。

「サンッ…」

「リーネ…綺麗だ」

首に唇を押しつけて鎖骨までいく。

「痛っ」

痛みが走った。

「リーネ、リーネ」

甘く甘く名前を呼ぶから応えてしまいたくなりそうになるけど応えられない。私もまだ気持ちを伝えてないし、サンの気持ちが分からないまま抱き合うのは嫌だ。

「……っ」

「はっ!ごめん!リーネ」

泣いていた私にアタフタしていて手を離してくれたから私はアタフタしたサンを見れたからヨシとしようとして胸の中に入る。

「リーネ…?」

「花束の事は聞かないで。お願い」

「……何でだ?」

「これは、私が解決したいの。サンは見守っていて」

「……ふぅー…」

サンのため息が頭上から聞こえてきて私を優しく抱きしめる。

「お前のお願いに弱いの知っていて言ってるだろ?今回だけだからな」

「お願い弱いの知らないー!!」

初めて知りましたよ。最初から知ってれば

『お願い攻撃』メチャするのに…と腕の中で

思ってしまった。

「副団長ー!!居るの分かってますよー」

「チッ。カルト」

「カルト様?サン、抜けて来たの?」

「いいや。見回り」

腕の中で慌てて離れたけどまた腕の中に入れられた。

「もう一回補充させろ。これから夜通しなんだ」

「そうなの?気をつけてね」

「あぁっ」

私とサンは友達以上恋人未満の位置なんだろうか。そもそも私とサンだと友達ではない気がする。敬語なしの伯爵で領地の息子で騎士副団長なのに対する私は男爵で普通の関係。

「副団長〜〜」

「五月蝿いな。カルトは」

また舌打ちして私を腕の中から離して髪の毛を一房掬い上げキスを落とす。

「ーーっ」

「行ってくる」

「…行ってらしゃい」

そう言ってサンは何事もなかった様に玄関から出て行った。お母様も知らない振りしたから役者ね。

「………」

気を取り直してサンからもらったプレゼントを開けるとブロンド色で繊細な刺繍で施されたロングスリーブ。ランドネックから覗く鎖骨まで透けているがここも繊細な刺繍で隠されている。ほぼ肌を見せないドレスだった。

「綺麗なペンダント」

髪飾りもブロンドで黒髪に映える様になっていた。唯一、ブロンドでないブルーのペンダント。

「本当に綺麗なブルーのペンダント」

サンの色でも、ションの色でもトゥーカ様の色でもない誰の色だろうと思っていたら手紙が添えていて判明した。

『亡くなった母の目の色のペンダントだ。着けて舞踏会に来てくれ』

「サンの亡くなったお母様の目の色なのね……」

胸が熱くなって目頭に涙が出てくる。サンに会ってから1日しか経ってないのに泣いてばかりな気がする。

「……」

ペンダントを刺繍の施したハンカチの上に置いて礼をした。

「サンロシスト・スゥーカ様のお母様。私は

トゥリーネ・ロータと申します。許可を得てこのペンダントをお借りします。ご一緒に舞踏会に

行って下さると嬉しいです」

そう伝えたらフワッと温かいのが一瞬だけど流れた気がした。

「お母様、よろしくおねがいします」

お母様も舞踏会に行って下さる…そう感じて心強い味方が出来たと思ってしまった。

「サンロシスト様が好きです。でも、サンロシスト様がどう思ってるか聞けないのでこのまま内緒にしておいて下さい」

笑ってそう答えた。ブルーペンダントがキラッと光って答えた気がした。

「……」

ぐちゃぐちゃになった床に置いてしまった花束を拾い上げた。

「花に罪は無いのに…」

泣きそうになるけど泣かない。ここで泣いたらこの先も泣きそうになるだろうから止める。

『サンロシストは私のモノよ。アンタなんか認めない』

「!!」

リサンナさんの字だろう。サンに気付かれずに良かったと思い花束もカードも机の上に置いてしまった。まさか、それをサンが見てるとは思わなかったけど。


「んっ…」

朝方に寝返りを打ちたかったのにうてなくって不思議だなって思った。

「んんっ?」

ガッチリと布団の上からホールドされていて頭上の上から寝息が聴こえた。

「!!サン!!」

大きい声を出しそうになったけど慌てて口を押さえて名を呼んだ。

「んっ…むにゃ…」

腕の中から抜け出して寝顔を見た。

「……」

可愛い寝顔を8歳の時に会ってから初めて見た気がした。

「…サン?どうして……」

ポフンッと顔をベットに押し付けた。

「リサンナさんが貴方を好きだって…。モテるわね…騎士副団長さん。私の事は妹なのよね?」

寝ているサンの胸にそっと触れると心臓が規則正しく動いていた。

「サン、いつまでも側にいて。わがまま聞いて」

サンの心臓の音が子守唄になってそのまま夢の中に誘われた。

(うはっー。起きようと思ったら喋ってビックリしたわ!)

俺はリーネが起きない様に口を塞いでドクドク心臓が激しく鼓動を打っていた。

「リーネ…」

眠りの中に入ったリーネの髪の毛を触りキスを落とす。

「妹なんて思ってないよ。女性として好きだよ。リーネ」

俺の腕の中にいるリーネをもっと寄せる。

「わがままは聞くよ。側にいる。俺の方こそ側にいてくれ」

上半身を起こしてリーネの頬にキスを落とす。

「くっ…」

下半身が熱を帯びる。

「だらしねぇー身体だ。し・か・し!!」

リーネの合意なしに抱けない。本人に起きていて『好き』と伝えて無いから抱けない。

「リーネ。ちゃんと終わってから気持ち伝えるよ」

「……サ……ン」

寝言で俺の名を呼んでくれたから俺は嬉しくなってしまってリーネを優しくもう少し寄せて抱きしめて俺も眠りの中に入った。


今の関係も好きだけどもう少し先に進む!!

今の関係も好きなんだけど先に進みたいな…


「わぁっ…」

王都主催の舞踏会に着いて門の所の煌びやかな眩しいキラキラしていて呆然と立ち尽くしていた。

「リーネ」

「フィーネル!」

友人を見つけてホッとして女同士門の所でキャアキャアしてしまった。

「リーネ、フィーネル」

「ヨーク」

ヨークも来ていて更に安心した。

「2人とも綺麗だな…」

「ありがとう」

「ありがとう。リーネは誰かさんを思い出させる色合いよね〜〜??」

「ゴホッ」

咽せた。フィーネルが急に図星を突いてきたからだ。

「その当の本人は?」

「えっー…と……」

その当の本人とは、一緒に舞踏会に着た何て言えない。1番最初にこのドレスを見たのは当の本人。

〔綺麗だ。1番綺麗だよ〕

そう言っておでこにキスを贈ってくれて「楽しんでおいで」と言われて門の前で別れた。ちゃんと降りる時もエスコートされた。

「はいはい。ご馳走様です」

「えっ?何も言ってないよっっ」

「その顔見れば分かるわよっ」

「えっー」

私ってそんなに顔に出てるのかしら?

もぉ、みんな私の顔見て読んじゃうから社交に

向かないね。良かったって言える??

「さぁ、行きましょう」

「えぇ」

門から入り城のホールへ足を踏み入れると天井高くシャンデリアがあり、金銀のお皿に豪華な立食。花も綺麗に生けられており香りが繊細だった。

「優雅ねぇー」

「うん。とても綺麗」

18歳の社交界デビューをして成人として認められた。もう一つ、成人として認められなくてはならないのは、舞踏会なのでダンスだ。

「ヨーク!踊るわよ」

「いいや。俺は…」

「あはは。行ってらしゃい」

ヨークはフィーネルに連れて行かれて2人は踊る。

私は、踊る相手が居ないので立食を堪能しようとお皿に手をかけた。

「一緒に踊って頂けますか?」

「えっ?王太子殿下??」

目の前に居るのは何故かジャック・ツカロリト王太子殿下が私にダンスを要求していた。

「喜んで…?」

「サンの言った通りだな」

「サン?」

『サン』と言う言葉に飛びついてしまったら王太子殿下は笑って手を差し伸べてくれて手を乗せた。

「あぁ、そなたのサンを駆り出してしまってすまんな」

「王太子殿下…私のサンではないですよ?」

どうして王太子殿下がサンの事を知ってるか分からなかったけど言葉は通り抜けしないわよ。

「サンとは剣術仲間なんだよ」

「まぁ、そうなんですね」

サンとは騎士の時に知り合って王太子殿下と知っても手加減無しで向かってきて本気でぶつかり合う相手に心を惹かれたと言った。

「サンらしいですわね」

「そなたは可愛らしく笑うのだな。サンが夢中になるのがよく分かる」

「えっ?」

サンが夢中になる?そんな事あるはずないわ。

だって妹ポジションだもの…と軽くため息を溢してしまった。

「あっ、失礼しました。王太子殿下」

「構わない。」

王太子殿下が優しいお方で良かったとホッと胸を撫で下ろした。

「剣術は凄いくせに恋愛は疎いな。こんな可愛い未来の妻を悩ませて…」

「?何か言いましたか?王太子殿下」

「いいや。殺されそうな目で見てる男が1人…2人か?そなたはモテるなぁー」

「クスクス。王太子殿下の方がおモテになりますし踊りたい令嬢は沢山いらっしゃいますけど婚約者のマリスナ・ツカロリト様を泣かさないで下さいましね」

「そうか。そなたは、マリスナの学友だったか」

「はい」

「不思議な縁だな。今度4人でお茶しよう」

「はい。喜んで」

王太子殿下とダンスが終わって最上級の挨拶をして王太子殿下は婚約者のマリスナの元に行った。マリスナが王太子殿下を待っていて腕を絡ませて上半身だけ後ろを向いて「ありがとう」と私に目配せしたから「いいえ」と返した。

「リーネ!!」

「フィーネル。そんな慌てて」

フィーネルが慌ててドレスを掴んで走って来た。

「王太子殿下と踊るなんてどう言う事?」

「サンの剣術仲間だったらしいよ?」

「サンロシスト様繋がりね」

「うん」

ヨークを見たらガックリしていて魂が抜けた状態だった。

「?ヨークどうしたの?」

「勝ち戦じゃないからじゃない?王太子殿下までで出来たらもう無理だもん」

「……?」

王太子殿下が出てきても別に別格の人だから関係ないと思うけどなぁー…と思いながらもその後はフィーネル達と舞踏会を楽しんだ。サンの警備のお陰で何事もなく無事に終了出来た。

「………」


ただ一つ不安な要素だけ残して……。

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