お前ら爆散しろ

第21話

side 川端



 夜の九時過ぎ。営業中のバーに仕事帰りだろうスーツ姿の悠がやって来た。


 烏龍茶しか飲んでいないというのに、悠は生ける屍の如くカウンターテーブルに突っ伏して項垂れていた。


「北川、どうしたんだよ。もう解雇されたのか?」

「……」


 川端の問いに悠は無言でかぶりを振った。


 悠は今年の四月からとある企業に就職し、社会人として働いている。

 彼女の響にプロポーズをして、受け入れてもらい、幸せの絶頂のはずだ。


「じゃあ、響ちゃんと喧嘩したとか?」


 今度は大きな溜息を吐いた。


「喧嘩したというか……俺が響を怒らせてしまったんです」

「何があったんだよ」


 会った回数は少ないが、響は冷静沈着な大人びた見た目に反して、おっとりかつほんわかした性格をしている。怒りとは縁がなさそうに見えてしまう。

 そんな響が怒るとは、悠は余程のことをやらかしたのだろうか……川端は非常に興味津々だった。


「響は、なんちゃら律って俳優のファンで」

伊賀いがりつだっけ? 」

「そう、それです。響は三日前に、大学の講義が終わってから握手会のイベントに参加したんです」

 

 伊賀律……今やドラマや映画に引っ張りだこの若手俳優である。デビュー作は特撮のマスクライダーシリーズで、主人公……ではなく敵対する悪役であった。

 モデルのように背が高く均整のとれた体躯に、端正な顔立ち。

 これまで数多の少女漫画や恋愛小説の実写化作品に出演し、若い女性ファンのハートを掴んできた。


「その後、仕事が終わった俺と合流して俺の家に泊まる予定でした……」


 悠は一度黙り込み、その時を思い出していたのか悲壮感を漂わせていた。


「響はかなり上機嫌になって、ずっと甲賀なんとか」

「伊賀律な」

「家に着いてもそいつの話ばっかりで……俺は、つい、カッとなって言ってしまって……」

「なんて?」

「”格好いいけど、演技が棒だよね”」


(こいつ、やべえな。芸能人相手にも嫉妬すんのかよ。頭おかしい)


 川端は悠の異常な独占欲を改めて思い知り、心底ドン引きした。

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