第18話

 六月十八日、午前零時過ぎ。

 悠の誕生日を迎えた。


「誕生日おめでとう」


 この一言を真っ先に伝えたくて、基本早寝の響は眠気を堪えて起きていた。日付が変わる前に寝落ちしないように得意ではない無糖のコーヒーを少し飲んでみた。


「ありがとう」

「一番のり目指してみましたっ」


 スマートフォンから悠の小さな笑い声が聞こえた。


「響が最初だったよ」

「やったっ」


 悠は自分と違い、友達が沢山いるだろう。きっと先越されてもおかしくないと思っていた。

 それ故、響は嬉しくなって破顔した。


「悠くん、また午後に。お祝いさせてね?」

「ありがとう。夜更かしさせちゃったから明日、今日か。寝坊してもいいよ」

「寝坊しないよ。頑張って起きる」


 二人はおやすみと言い合って、通話を終えた。


 

 昼下がり、響はいつもより眠気を感じながらも寝坊せず起きることが出来た。悠が迎えに来て、一緒に彼の自宅へ向かう。

 道中、スーパーマーケットに寄らせてもらい、必要な食材を調達した。

 今回は響が夕飯とバースデーケーキを作る。去年の自分の誕生日、悠が作ってくれたように響も作ってあげたくなったのだ。


「何作るの?」

「内緒だよ。キッチン借りるね」


 響はにこりと破顔すると、買った食材が入ったエコバッグとエプロンを手にしキッチンへ向かった。

 キッチンに立つ時はお菓子作りが多い。ご飯系はお菓子作りほど手際はよくないが、響はレシピに忠実に従って予め決めたメニューの調理を慎重に進めていった。


 響は調理に集中していて、悠に見つめられていたことは知る由もなかった。




 夕方になり、誕生日のご飯が完成した。

 テーブルに並べられているのは、手まり寿司、筑前煮、生ハムを花に模したブーケサラダ、お吸い物だ。

 響の誕生日の時、洋食中心だった悠のものとは逆にほぼ和食中心にしてみた。


「いただきます」


 二人は同時に手を合わせて、食事を始めた。

 響は食べることなく悠の反応を窺っている。口に合うか、メニューの組み合わせはおかしくないか、気になってしまう。


「美味しいよ」

「よかった……ご飯系はあまりやらないから緊張したよ」


 お菓子をあげる時も緊張するが、今回はもっと緊張を覚えた。

 悠の言葉に、響は安堵の息を吐き、ようやく食事に箸を付け始めた。悠は綺麗な箸使いで完食してくれた。


 食事の後、響はデザートにアップルパイを出した。

 悠は生クリームが得意ではないので、バースデーケーキならぬ、バースデーパイを焼くことにした。


「甘さがちょうど良くて美味しいよ。来年も作ってよ。その前に響の誕生日だね」

「楽しみだよ」


 これからも悠が傍にいてくれると思うと嬉しくて、響の頬は緩み、とろけそうな笑顔になっていった。







 食事をしてお腹を休ませた後、じゃんけんにより響、悠の順番でお風呂に入った。今二人は寝室のベッドのふちに並んで座っている。


「これ、悠くんにプレゼント」

「用意してくれたの?」

「店員さんに話を聞きながら選んだの」


 先日買った件の腕時計を悠に差し出した。


「時々でもいいから身に付けて貰いたくて、これにしたの」

「ありがとう。大事にする。毎日つけるよ」


 悠は早速腕時計を取り出し、手首に巻き付けた。

 似合う? と尋ねる悠に、響は満面の笑みで頷いた。

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