第17話

緊張しながら、メンズのフロア内を歩いて見れば、雨の影響で人の出入りが少ないとはいえ、まばらに男性客がいた。


(見られてる……? ううん、気にしちゃだめ。私の思い違いだよ)


 自意識過剰だと思いながらも、響は去年の恫喝を受けたトラウマの経験から、声をかけられないようにと切実に祈っていた。


 来て早々帰りたくなったが、必死に堪えて悠に贈るプレゼントを探していく。


(アクセサリーは……ほとんど着けないし、香水? お財布? 鞄? わからないよ……っ)


 響は己の異性との関わりの無さを密かに嘆いた。


(そうだ、川端さんに相談してみよう)


 響は悠の友人である川端にメッセージを送ってみることに決めた。去年の晩秋の悠の入院中、川端と連絡先を交換した。


《忙しいところすみません。悠くんの誕生日プレゼントで相談があります!》

《響ちゃん、あいつのために健気だねー。響ちゃんからなら消しゴム一個でも喜ぶから気楽に選びなよ》


 今朝の柴田の言ったこととそれとなく似た内容が返ってきた。


(どうしよう……)


 頭を悩ませながら、フロアを回っている途中、響の歩みが止まった。

 雰囲気の良いセレクトショップを見つけた。響は誘われるように店内へ足を踏み入れた。


(ここの雰囲気好きだな……内装も落ち着いてて素敵)


 商品を見て回っていた時だった。


「お客様、何かお探しですか?」


 背後から男性の声が聞こえて、響は驚いてびくりと肩を揺らしてしまった。


「あの、誕生日プレゼントを探してまして……か、彼氏の」


 悠と父親以外の異性と話すと酷く緊張してしまう。響はしどろもどろになりながら説明をした。


「ご予算は」

「特には……」

「そのお相手の年齢は、差し支えなければ」

「二十歳……大学生です」


 店員は、言葉数が多くはない響に親身になって聞いてくれた。


「それでしたら、こちらはいかがでしょうか」


 店員はガラスケースにある一つの腕時計を取り出した。


「シンプルな作りになっていますので、普段使いにも使えますし、就職活動の際も問題なく付けられますよ。それに、腕時計を贈る行為に、『同じ時を共有したい』と言う意味が込められております」


(素敵だなぁ……)


 店員の話に、響は猫目をきらきらと輝かせては、いたく感銘を受けていた。そして、響は心に決めた。


「こちらを買います。プレゼント用に包んでいただけますか?」

「ありがとうございます。少々お時間を頂けますでしょうか」

「お願いします」


 しばらくして店員から包装されたものを受け取ると、響は悠の顔を思い浮かべた。


(喜んでくれるかな……)


 悠のことを思うと、異性の店員とのやり取りで緊張していた表情が綻び始めた。


「お客様?」


 店員の声に響は再びびくりと肩を震わせた。


(いけない。にやにやしてたかも。怪しまれるよ)


「あ、ありがとうございました」


 響はだらしない顔をさらけ出していた事実を恥じ、お礼を告げると逃げるようにそそくさと店舗から離れた。


 プレゼント探しに頭を使い、緊張に晒されていた響だったが、無事に買うことが出来て、ほっと安堵したのだった。

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