第16話

 いつものように悠に送られることとなった。


 悠と手を繋いで帰り道を歩いている間、響はずっとプレゼントについて考えてていたが、結局、悠の欲しいものは分からずじまいであった。


 いつもよりあっという間に自宅に着いてしまった。

 絡み合った指が解かれ、離れていく。この瞬間は何度経験しても慣れることはなく、寂しさに襲われてしまう。


「またね、響」

「バイバイ、悠くん」


(プレゼントどうしよう……)


 頭の中で悩みながら、響は小さくなる悠の背中をこっそりと見つめていた。





 それから数日後の土曜日。今日は学校がなく、絶好の悠のプレゼント探しの日だ。


 悠には習い事があると嘘をついている。

 騙すのは心苦しいが、誰かと会うわけではなく、サプライズの為だと言い聞かせる。


 柴田しばたと名乗る女性の使用人が、朝食後の紅茶をカップに注ぐ。

 彼女は母と共に笹山家に仕えている。


「彼氏の誕生日プレゼントは何を選べばいいのかな? 柴田さんなら何を選ぶ? 逆に選ばない方がいいものはあるかな?」


 彼女は大学に通いながら、響の身の回りの世話をしてくれる。詮索する気はないが、プライベートでは恋人がいるかもしれない。

 響は参考になれるアドバイスを期待していたが。


「きっと、お嬢様がお選びになったものなら何でも喜んでくださりますよ」


 彼女に微笑ましげな笑顔を向けられた。


(これは喜ぶ、あれは喜ばれないが知りたかったけど……)


「ありがとう。よく考えて選ぶね」


 家を出ると、しとしとと小雨が降っていた。

 しかし、その割りに空気はじめじめしておらず、涼しくて快適だ。


 道中、雨宿りをする野良の三毛猫に気を取られたりしながらも、百貨店を目指した。


 立ち寄った百貨店は、時々外商の担当の者が自宅に商品を持って来ることがあるが、響は直接店に赴き、自分の目で見て探したかった。


 ……例え、プレゼントを探す場所が、恐怖対象である異性が集うメンズのフロアだとしても。

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