来年も再来年も、ずっと

第15話

side 響


 ある日の放課後、響は悠の自宅にお邪魔していた。


 初めて体を重ねるようになって以降のお家デートは、一層甘いひと時となった。


(食べられるって、こういうことを言うのかな……)


 自分をベッドの上に組み敷き、隅々まで貪る悠のありようは、まるで肉食動物さながらであった。思い出すだけで、響の頬は赤く染まり、熱が集まってしまう。


 情事後特有の気だるさを感じながら、響はぼんやりとした意識で長袖のシャツに腕を通し、ボタンを留めていた。着替えているところを見られるのは恥ずかしいので、悠にはリビングで待ってもらっている。


 ふと、ヘッドボードに置かれているデジタルのアラーム時計に目が入った。それに表示されている日付は“5月31日”だった。


(明日から六月……悠くんの誕生日が来るんだ)


 明日から六月に入り、悠の誕生日までカウントダウンが始まる。

 去年は友人として祝ったが、今年は恋人として初めて祝う。


 恋人として、喜んでもらえるようなプレゼントを贈りたい。


 しかし、悠は物欲があまり見られない。

買い物に出かけても、大半は響のものを見ていることが多い。


(なんとかして欲しいものを聞き出そう)


 着替え終えた響は、早速行動に移そうと、リビングで待つ悠の元へ向かうべく寝室を後にした。


 そっとリビングの出入口から窺うと、悠はソファーに座って、タブレットで何か電子書籍を読んでいた。


「悠くん」


 響が声をかけながらリビングに足を踏み入れると、悠は振り向きざま柔和な笑みを浮かべた。

 響は悠の隣に座り、緊張しながら身を寄せた。


「悠くんって、煙草吸ったりする?」


 吸っているところを一度も見たことがなければ、服から匂ったこともない。実際のところどうなのか気になっていた。

 吸っていればライターにしようかと、響は密かに考えていた。


「吸ってないよ。子供の頃気管支が少し弱かったから、吸おうとは思ったことはないな。正直、臭いが苦手」


 悠に煙草を嗜む習慣はなかった。


「そうなんだ。喘息持ちとか?」

「そこまで酷くないよ」


(ライターは候補から外そう)


「最近、日常で困ったことはない?」

「いや、大丈夫。問題はないよ」


(世間のカップルはどうやって欲しいものを調べてプレゼントを用意したんだろう……友達がいないから話が聞けないよ……)


 響は内心しょんぼりと落ち込んだ。

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