第12話
プリンを冷蔵庫に入れて、響の為に冷たいミルクティーを用意し始めた。自分の分は何も加えない無糖のストレートティーにした。
「ありがとう。いただきます」
響は悠から受け取ったグラスを受け取り、美味しそうに一口二口飲んでいた。悠は隣に座るとミルクティーを味わう響を見つめていた。
「さっき、響のラインに気付かなくてごめんね」
わざと無視していたことは伏せて、申し訳なさげに謝る。
「気にしないで。寧ろ、私の返事早過ぎてひいた?」
「そんなことはないよ」
「それなら良かった」
響はふわりと柔らかい微笑を浮かべた。
響は怒りをほとんど表に出さない。これまで響を見つめ続けてきたが、まれに苛立ちを見せることはあれど激昂した所を一度も見たことがない。
(響は何をしたら怒るんだろう……浮気か?)
心の中で言葉にしてみたが、すぐに後悔と自己嫌悪に苛まれた。想像だけでも自分が響ではない女と浮気をするなどあり得ない。
響以外の女は路傍の石であり、醜い汚物だ。向こうから来られたとしてもお断りだし、こちらから近寄りたくもない。
逆に響が万が一浮気に走れば……と想像してみた。以前、元彼がいたと仮定した時のような不愉快な感情が湧いてきた。
殺意を抑えることに骨を折るが、浮気相手に容赦ない制裁を下すに違いないと悠は思う。
(後は、響を二度と誰の目にも触れないようにしなきゃ……ね)
先日手に入れた手枷がある。今はクローゼットの奥にしまっているが、日の目を見ることになるだろう。
(本当は死ぬほど嫌だけど、もし響が浮気したら、一回だけなら目をつぶってあげようか――――響を監禁する大義名分が立つから)
その展開を想像するだけで、狂いそうな独占欲と響を支配出来る仄暗い歓びが悠の心を占めていた。
「どうしたの? 私の顔何かついてる?」
ふと、響の甘い声が耳に届き、悠は我に返った。目の前の響は小さく首を傾げている。腹の中で思い浮かべた異常な考えを響に知られる訳にはいかない。
「響が可愛いなって思ってた」
傷みのないショートボブの髪をひと房手に取った。
悠の言葉と仕草に響は慌てふためいた。頬を染めて動揺する響の可愛さのあまり、悠は衝動的に響を抱き締めていた。
「あ、あの……」
隙間を許さないほど密着すると、響の胸の鼓動が伝わってくる。悠は理性の瓦解していくのを自覚しながら、響の少し開いた唇を性急に塞いだ。
「ん、」
響から甘い声が洩れる。
わざとリップノイズを立てると、響の大きくなった鼓動がまた伝わってきた。
薄らと開いた響の瞳は潤んでいて、壮絶なまでに扇情的だ。
「好きだよ」
一度唇を離し、耳元に寄せ囁いた。
「わたしも……」
「わたしも?」
「っ、すき……っ」
欲しい言葉を紡いだ唇を再び塞いでやった。
(響の口の中に舌を入れてみたい)
響の舌を自分のものと絡ませたい衝動が頭の中を支配する。響を前にすると、心の準備が出来るまで手を出さないという誓いを反故してしまいそうだ。
ゆっくりと解放してやると、響は脱力した体を悠に預けた。
熱の孕んだぼんやりとした
口の端から唾液が零れ落ちている。そこに舌を這わせれば響は小さく体を震わせた。
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