第11話
どんな理由があろうが、響を一人で歩かせる真似は出来なかった。
害虫もとい通りすがりの男が響を見初めるなどあってはならない。
今の時期、人より少し体力のない響が熱中症などで倒れることも避けたい。
午後の予鈴がイヤホンから聞こえてきた。これからは既読が付かずやきもきしながら午後を過ごすことになるに違いない。
「俺に会うまでは不安に苛まれていて」
いつものように笑いかけて、可愛がってやれば、響は依存症患者のように己にのめり込んでくれることだろう。
響は折りたたみの日傘を差してやって来た。日傘は夏休みに差していたフリルの付いた黒いものではなく、白地に黒猫のイラストが描かれた可愛いデザインだ。
「響、」
声を掛けると、響は目を大きく丸くさせて驚いていた。
「来てくれたの?」
「ごめんね、ラインさっき気付いたよ」
「まだ暑いのに……」
「早く気付いても響を一人で歩かせたくないよ。なにかあったら気が気じゃない」
これは偽りのない本音だった。
「いつも私のこと、気にかけてくれてありがとう」
響は、悠が純粋に心配していると誤解していた。
響の傍に立って、離れたところから響に視線をよこす男共に牽制をかけてることを彼女は全く知らない。
「折りたたみだけど、日傘入って」
響は目を細めて柔らかい笑みを浮かべていた。
いつもと変わらない悠の態度に、響は心底安堵しているようだった。
悠は響の持つ日傘を代わりに持って、いわゆる相合傘をした。
「お邪魔します。わ、涼しい……」
玄関に入ると、ひんやりとした空気が肌に触れた。
響を迎えに家を出る時、エアコンを付けっぱなしにしておいた。
響が快適に過ごせるなら、かかる電気代など痛くも痒くもない。極めて有効な出費だ。
自宅へ向かう途中に寄ったコンビニエンスストアで買ったプリンを冷蔵庫に入れる。
スイーツコーナーにあったレトロな喫茶店のメニューにありそうな固めのプリンに響が目を輝かせていたのでつい買っていた。
「響、座ってて。ミルクティーでいい?」
「ありがとうっ」
響をリビングのソファーに座らせると、悠はキッチンへ向かい、冷たい飲み物を用意し始めた。
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