罪深くて狂おしい

第10話

九月に入り、響が通う誠稜高校は二学期を迎えて数日が経過した。


 ──笹山さんってほんと男好きだよねー! 先輩の彼氏横取りしてポイ捨てしたらしいよ。パパ活もしているらしいよー。

 ──まじ? 私はいかがわしいお店でバイトしてるって聞いたよ。

 ──確実に病気持ってるって。やばぁっ、隣の席なんですけどー!

 ──アルコールで清めときなよ。


 響ではない女共の陰口と甲高い笑い声が耳をつんざく。きっと響は近くに居合わせてしまったのだろう。


 昼休憩に差し掛かる頃、悠は盗聴を聞いていた。

 響が入学してすぐに悠が広めた響の中学時代のいじめ行為が下地となり、真偽が怪しいデタラメも、学校の人間は「笹山さんだから」と鵜呑みにしている。


 ちなみに響がいかがわしいお店でバイトをしているという噂は、悠が最近広めたものだ。


「響はこんな屈辱的な噂に心を傷めているんだろうなぁ。可哀想に」


 広めた張本人が言うと一層白々しさが増す。憐れむ言動に反して口元は愉快そうに歪めていた。


《放課後、うちに来る?》


 響宛にメッセージを送る。するとすぐに既読が付いた。


《うんっ》


 猫のゆるキャラがお辞儀するスタンプと共に返事が来た。

 相変わらず、誘いの返事が早い。余程自分に会いたいのだろうと思うと、響がいじらしく見える。


 これから、(悠によって吹聴させた)デタラメな噂と誹謗中傷で打ちひしがれている響を癒してあげる。

 響がどう甘えてくるか楽しみで、気付けば頬が緩み口角が上がっていた。


 ──どうしよう。この噂を他の生徒から聞いて知ってしまったら、悠くんは私を軽蔑しちゃうかな。会いたいのに、怖い……。


 響の弱々しい独り言がイヤホンに流れてきた。


(軽蔑はしないよ。責任取って死ぬまで愛してあげるから)


《今日は気温が高いから、待ち合わせはやめよう》

《私、そのまま悠くんのお家に向かうから涼しいおうちで待ってて》


 響からそんなメッセージが連続で届いた。悠は既読が付かないように確認した。

 最近は響の学校の最寄り駅で待ち合わせている。待ち合わせを辞めたいのは、おそらく学校の生徒と接触を避ける為だろう。

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