第9話

――――あの夜から一週間が経過した。怪我から少し回復した彼は久し振りに登校した。いつもなら彼女を見るために乗っていた時間に合わせるが、今日は二本早い電車に乗ることに決めた。


 あの夜以降、忌々しい悪夢は到来して来ない。彼は平凡な日常に安寧を感じながらぼんやりと日々を送っていく内に夢ではないかと考えるようになった。


 そんなある日のことだった。本来なら乗ってこない時間の車両に彼女が現れた。たまたま早く起きたのだろうか。


 ぱちりと視線が重なる。

 以前ときめいていた胸が、恐怖で嫌な音を立て始めた。


 破滅の予感をひしひしと肌に感じる。何故かあの男が近くで嘲笑っている気がした。


(また何らかの形で関わったら、俺はあの男に社会的に殺される……)


 呼吸が浅くなり、水をなくした金魚のようにはくはくと苦しみ喘ぐ。過呼吸に陥ってもおかしくはない。おまけに胃がキリキリと痛み出した。


「ひ、あ、うう……」


 彼は彼女から逃れるように、密集している人ごみを強引に掻き分けて場所を移した。






 ――――彼は知らない。


「私、違う学校の人にも嫌われているんだね……」


 彼女がぽつりと悲しげに呟いていたことを。

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