害虫は狂人に踏み躙られる
第6話
ある他校の男子 side
高校に入学してひと月が経過した。
連休明けにより、彼はいつもより遅い時間におきてしまい、二本遅い電車に乗っていた。
いつも乗る電車とは違い、乗車率が高く、すし詰めのように密集している。
始発駅が最寄り駅の彼は運良く座れたが、げんなりとしていた。
(テンション下がるわ……ダル)
今日から学校が始まる事実を憂いていた時だった。
ある駅から一人の女子高生が乗り込んだ。彼女の姿を捉えた瞬間、彼は衝撃を受けた。
濡れ羽色のショートボブ、小さな顔に大きな猫目と、通った鼻筋、形の整った薄い血色のいい唇。
背は高めだが、いかつさはなく、すらりとしたしなやかな体躯だ。
同じ人類かと疑ってしまう程、彼女の可憐な美しさは類まれなものだった。
隣に座っていた会社員風の男が彼女に席を譲っていた。彼女は戸惑いながら会社員に一礼をしてそこに座った。
こっそりと盗み見る。彼女が着ている濃紺のブレザーに同色のプリーツスカートは、自分が通う高校より一つランクが高い誠稜高校のものだ。アルバイト禁止を除けば自由な校風である。
(才色兼備ってやつか)
そんなことを考えていると、ふと肩に重みを感じた。隣に座っていた彼女はうたた寝をしており、彼に寄りかかってきた。
彼女の髪からいい匂いがする。
同じクラスの派手な女子が付けている、鼻が曲がりそうなほど振りかけたヘアフレグランスとは違う。
(睫毛長……肌も白くて綺麗だ)
絶世の美女の隣に座れるだけでも僥倖だというのに、寄りかかってきたのは、神様が勉強漬けで疲弊している己へのご褒美だろうか。
制服のスカートは都内の女子高生にしては少し長めの膝丈で、シャツは一番上のボタンを一つ外しただけだった。規定通りの模範的な着こなしだ。素材がいいと着飾る必要がないのか、彼は密かに感じた。
誠稜高校の最寄り駅の到着を知らせるアナウンスに、うとうとしていた彼女はゆっくりと目を覚ました。
そして、寄りかかっていることに気付くと、眠そうにしていた顔は青ざめていった。
「ごめんなさい……っ」
予想より高めの声だった。
大人びた容姿からハスキーな声をイメージしていたので、内心驚いた。同時に可愛さに悶絶しそうになった。
「大丈夫っす」
平静を装えた自分を褒めたい。
じゃなければ、顔面はにやけて崩壊して不審者になってしまうだろう。
「本当にすみません」
彼女はそう言いながら頭を下げると、慌てて降車した。彼女のすらりとした華奢な体躯は、目に焼き付いて離れなかった。
この時、彼は名前も知らぬ美少女に恋に落ちてしまった。
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