第4話
(もし、悠くんが告白して付き合うようになったらこうやって話せなくなるの……? 振られてしまえばいいのに)
響は我ながら最低だと考えていた。顔が見えないのをいいことにそんな己に声を出さずに自嘲気味に笑った。
「ふふ、悠くんの声聞いたら安心しちゃった」
「それは良かったよ」
「視線くらいで頼ってごめんね」
「響が安心出来るなら、いくらでも頼ってよ」
悠の優しさが響の心に深く染みる。
「ありがとう……あ、そうだ」
「ん?」
「あのね……八月の十二日に悠くんの母校の近くの神社で縁日があるの。良かったら一緒に行かない?」
好きな人のところに行って欲しくない。そんな気持ちから出た誘いだったが、悠は何か話すことはなく無言を貫いていた。
(いきなり好きでもない人に誘われても、困るよね……好きな人を誘うって言っていたし……)
「打ち上げ花火を見てみたいんだけど、一人で行く勇気はなくて……いいかな?」
数十秒ほどの沈黙が耐えられなくなり、響はおどおどとした口調で再び話し始めた。
「いいよ。行こうか」
(今、いいよって言った?)
悠の返答は響を驚かせた。
用事があるだの、実家へ帰るだのといった断り文句を予想していた。
てっきり断られるものと思っていた響は、悠の返事に耳を疑った。
(好きな子を誘うんだよね? どうして私の誘いに乗るの……?)
悠にとって自分は、ただの知り合いか良く言って友人でしかないと響は認識している。
それでも、親身になって彼氏の振りをしてでもストーカーから守ってくれた。
きっと、悠は相手を優先してしまう性質なのだ。
一緒に縁日に行ける嬉しさより、悠に無理をさせてしまった罪悪感が勝り、響の心を占めていった。
「……っ、ありがとう」
(邪魔して、ごめんなさい……)
悠が自分の声の震えに気付かないようにと祈る。
「当日、響の家まで迎えに行くね」
「お願いします。私、眠くなっちゃったからそろそろ……」
「おやすみ、響」
「おやすみなさいっ」
通話が終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます