第3話

「ああ、彼処あそこの?」

「移動するのは大変だけど、境内は見晴らしがいいから、絶好のスポットじゃないかなぁ」

「イベントに便乗してみるのも悪くないね。誘ってみるよ」

「あ、今年は台風の接近で日付変わってるから」

「分かったよ」

 

 告白を前向きに検討してる悠に、響の心が密かにへし折られた。

 

(ああ、もう限界だ……)

 

 響は悠に気付かれないように静かに立ち上がり、会計をしにレジ前まで向かった。

 足元が覚束なくて転びそうになったが、転ばずに済んだ。

 

 涙目になっている顔を、レジを打つ男性の店員に見られてしまったが、響の頭の中は悠のことでいっぱいでそれどころではなかった。

 

 かき氷を食べ終えた後は書店や雑貨屋を見て回る予定だったが、別の機会にして真っ直ぐ帰宅した。







 お風呂から上がった後、いつもの寝る時間に差し掛かったが、響はまだ自室のベッドの上でぼんやりと物思いに耽っていた。


 

(今、何しているんだろ。声が聞きたい、話がしたい……)

 

 響はおもむろにスマートフォンを操作し、悠に電話をかけた。数コール鳴った後、悠はすぐに出てくれた。

 

「いきなり電話かけてごめんね?」

「大丈夫だよ。何かあった?」

 

 悠の大丈夫に甘えて、響は意を決して話し始めた。

 

「あの、私の勘違いだと思うけど……ストーカーの視線を感じるの。怖くて眠れなくて……」

 

 それは真っ赤な嘘だ。六月から続いたストーカー行為は八月に入ってからなくなった。本来なら仮の恋人関係は解消すべきである。

 だが響はその時を受け入れる勇気はなく、まだストーカーがいるのだ、と悠に嘘をついてしまった。

 

「それなら響が怖くなくなるまで話しようか」

「うん……っ」

 

 悠に疑う様子は見られず、響の恐怖心を取り除く為に話に付き合ってくれた。

 取り留めのない話をしているだけなのに、響の心は満たされていく。

 

 小学六年生の時分、 初めて会った頃から悠に思いを寄せていたが、孤立するようになってから更にのめり込んでいる自覚があった。

 

 学校で爪弾きにあって荒んだ心や寂しさは、悠と会うと癒されるのだ。

 自分と向き合って笑いかけてくれたり、親身になってくれる人は、家族を除いて悠しかいない。

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