第2話

「いや……突然なに?」

「あたし、見かけたんだ。この前、悠が黒髪のショートボブの凄い美少女と一緒にいるところ。邪魔になりそうだったから声はかけなかったけどね」

 

 指先から体温が奪われる感覚に襲われる。貧血気味のようにくらくらと目眩を覚えた。

 

(私を家に送ってから夜に会っていたのかな。同じ大学の人とか?)

 

 髪型は響と被っているが、凄い美少女という表現から別人に違いないと思った。

 

「今は違うけど……彼女になって欲しいなとは思うよ」

 

 悠の言葉は響の心のかさぶたを剥がし、傷みを与えていく。

 四年前を思い出す。由加と立ち寄ったファミレスで見かけた、悠と環が一緒にいるところを。

 

「良かったね。やっと新しい恋出来るようになったんだ」

「あの頃は瑞穂に沢山心配かけたね……もう環のことは思い出に出来たよ。今はあの子が好きだよ」

 

(しばらく環お姉さまのこと引きずっていたんだ……)

 

 響が中学二年の秋頃、悠と環が環の家の事情で別れたと風の噂で耳にしたことがあった。

 好きなのに別れなければいけない、想像しか出来ないが辛く、苦しく、胸が傷むことだろう。

 

 そんな悠が未練を断ち切って好きになった相手はどんな女性ひとだろうか。響は胸の傷みを払拭するように残りのかき氷を食べ進めていく。

 しかし、先程は美味しく感じたかき氷の味が今では分からなくなっていた。

 

「悠は告白しないの?」

「……いつかはするつもり」

 

(悠くんなら相手が誰だろうがオッケー貰えるよ)

 

 響だけが格好よく見える特殊なフィルターがかかっている訳ではなく、他の人から見ても悠は非常に端整な容姿だ。

 一緒に歩いていると、通りすがりの異性の熱い視線が悠に集中しているところを幾度も目の当たりしたものだ。

 

「それなら、高校の近くの神社の縁日に誘ったら?」


 従姉妹が悠に提案をした。


(お父さんから聞いたことがある……確か、打ち上げ花火もやっていたよね)

 

 父は若い頃、祖母の跡を継ぐ前に教師をしていた。縁日の見回りに駆り出されたことがあり、縁日の話を響にしてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る