marionette SS
水生凜/椎名きさ
あと少しだけ
第1話
※本編「俺から目を背けないで」の響視点です。
八月に入り、昼下がりの猛暑の照り付ける日差しの中、響は一人SNSに載っていた和風カフェに赴いていた。
渡されたメニュー表を眺め、宇治金時をベースにしたかき氷を注文した。
ここに来る前から決めていた。口の中はかき氷になっている。
「おまたせいたしました」
店員に運ばれたのは、抹茶のシロップがかかった氷の上に、つぶあんとバニラアイスクリーム、白玉が三つ乗せられているものだった。響の目がきらきらと輝いた。
(美味しそう……っ)
響はうきうきしながらスマートフォンで写真を撮ると、早速手を合わせてから食べ始めた。
(美味しい……! フルーツ系もいいけど、私は宇治抹茶ベースのかき氷が好きだなぁ)
響はアイスクリーム頭痛に見舞われることなく、堪能していた。
「寒くなっちゃった」
四分の三ほど食べ終え、寒さを紛らわせようと持参した長袖のパーカーを羽織り、かき氷と一緒に注文した温かい和紅茶を飲んだ。
冷えた体が温まり、再びかき氷を食べ始めようとしたその時だった。
(ゆ、悠くん!?)
カフェの入口付近に悠と、悠と同年代ほどの女性と一緒にいた。
栗色の真っ直ぐ伸びた髪、綺麗な二重瞼の大きな瞳、大輪の花が咲き誇ったような華やかさがある。
驚きのあまり口にしていた和紅茶を噴き出すところだったが、無事に飲み込み難を逃れた。
響はちらりと盗み見る。悠と一緒にいる彼女の姿に見覚えがあった。
(あの美人さん、従姉妹さんだよね?)
以前、悠が彼女の挙式に参列した時の写真を見せてくれた。
よくよくみると、二人は兄妹のようになんとなく似通っている。
二人は響の一つ前のテーブル席に腰を下ろした。
悠は背中を向けており、響に気付きそうにない。
二人は和スイーツを食べながらお互いの大学の話や近況を話していた。盗み聞きするつもりはないが、近くにいる為会話が耳に入ってしまう。途中、彼女の結婚生活の話がメインになり、響は微笑ましそうにくすりと笑みを零していた。
「あのさ、悠って彼女出来た?」
しかし、従姉妹の疑問は、響の微笑ましい感情を消し去り、凍てつかせた。
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