chapter1

天使のような男(ひと)

第2話

「――――都内随所の桜の名所・〇〇公園の桜は五分咲きとなっております。お花見のピークは間もなくやって来るでしょう!」



寒さがだいぶ和らいで、温かい日差しが差し込むようになった四月初旬のある日。



二十型の液晶テレビに映る、フェミニンな服に身をまとった女性アナウンサーの実況を見ながら、久城くじょう真綾まあやは温かいカフェオレをちびちびと飲んでいた。



「もうすぐお花見の時期なんだぁ」



自分以外誰もいないのに、無意識にテレビに向かって語り掛けていた。



(いけない。また独り言言っちゃったよ……一人暮らしして一年しか経っていないのになぁ)



真綾は今日から高校二年生になったが、高校を入学した頃から一人暮らしをしていた。



中学卒業間近。両親を不慮の事故で亡くした。

この時、第一志望校であった今の高校は既に受かっていたので、遠方に住む親戚からの援助で一人暮らしを始めた。



ごく普通の六畳の1DKのアパートだが、リフォームされており、エレベーターがないことを除けば住み心地は悪くない。



高校は進学校と名高い菖蒲しょうぶ大学付属高等学校。

学費は公立と比べるとかなり高額だが、幸い入試を上位の成績で突破したお陰で半額で済んでいる。

今年度も一年の成績が評価され、無事に半額免除となった。



朝食代わりのカフェオレを飲み終えると、キッチンのシンクに置き、学校へ行く準備を始めた。



二学年を表す深緑の真新しいスカーフをセーラー服に結ぶ。

櫛で背中まで伸びた黒髪を梳かし、蜂蜜の甘い香りがするリップクリームを唇に塗った。



「行ってきます」



指定の鞄を肩にかけると、写真立てにある両親の写真に告げてから家を出て行った。



玄関のドアに鍵を掛けて階段を降りていく。

あと数段で降り切ろうとした時、適度に着崩した黒い学ランに身をまとった長身の少年が真綾に手を振った。



真綾は慌ててさっと手ぐしで髪を整えると、足早に彼の元へ向かった。

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