先生は歪んだ愛情をあたしに与える

水生凜/椎名きさ

prologue

第1話

目が合った瞬間から



あたしは囚われていた



一度捕えられたら



彼の背徳に塗れた狂気から



逃れられない――――





窓から見える外の景色を、何度眺めたことだろう。

初めて見た時は青々した眩しい緑だったものは、今はくれないに染まっている。



囚われの身になるなんて、おとぎ話だけの話だと思っていた。



あの日からあたしは、一度も日差しを浴びていない。

前までは日焼けが嫌で、日傘や帽子で完全防備をしていたのに、今では無性に恋しい。



願いが叶うなら、幼い子どものように外を駆け回りたい……。



しかし、万が一ここから抜け出したとして、あたしはどこへ向かえばいいんだろう。

“ここ”に閉じ込められた時から考えているけれど、答えは一向に見つかりやしない。



あたしは飽きもせずに、ただ一つしかない窓から見える景色を眺めながら考えていると、ドアのノック音が耳に入った。



返事なんてしてあげない。どうせ、入ってくるんだから。



あたしの前に現れたのは、同じ人類とは思えない美し過ぎる青年。

十代のあたしより、いやみなくらい滑らかな白磁の肌を見るとら舌打ちしたい衝動が込み上げてくる。



「おはようございます」



テノールの柔和な口調に、挨拶を返すこともなく無言を貫くあたし。

彼は何度もあたしの名前を呼んだけれど、一度も返そうとはしなかった。



「……無視は感心しませんね」


「きゃっ」



彼はたやすくあたしを抱き上げた。

彼が歩む先にあるベッドに、血の気が引いていく。



「ご、ごめんなさい……」



心の中では反抗しているけれど、いざ向き合うとあたしは怖気づいてしまう。



怯えるあたしに彼は嘲笑を浮かべた。



「いい加減学習したらいかがですか? 反抗したって貴女は二度とここから出られないのですから」


「や、ごめんなさい……っ」



彼は好青年の皮を被った悪魔だ。



ベッドに寝かされると、彼は、抵抗どころか息をするいとまも与えずあたしの唇を食べるように塞いだ。



身にまとっていた純白のワンピースのボタンを外された瞬間。



……今日も汚されてしまうんだ。



せめてもの抵抗に、あたしは彼の顔を映さぬようにまぶたを閉じた――――

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