おかしな召喚主――バエル
大いなる王であるこの我わたしを喚び出せる人間など存在するはずがない。
しかし、忌まわしい暴食の糞餓鬼に大半の力を奪われてしまった今となってはその限りではないのだと、初めての感覚を前に思い知らされていた。
我わたしを喚び出すほどの欲深さ、どんな悪辣で傲慢な召喚主だろうと面を上げれば、まだあどけない顔立ちの童子がいた。我の姿を見て目を輝かせるその姿は、悪魔を召喚するような輩とは正反対に位置していて、己の目を疑う。
「わあ、貴方が悪魔さんですか?」
無邪気な顔で嬉しそうに手を合わせ微笑む。
困惑しながらも問いに「是」と答えれば、ぱっと満面の笑み。おかしな童子だ、調子が狂う。手早く仕事圏を済ませてしまおうと事務的に言葉を発する。
「我わたしと契りを交わせ。貴様の魂の半分を対価にどんな願も叶えてやろう」
「おお、これが噂の誘い文句ですね! そうですねえ。それじゃあ、私とお友達になってくれません? 出会ったばかりですし、契約は仲良くなってからお願いします」
何を言っているのか。今度は己の耳を疑った。幼げな緑の目を見上げれば「貴方は山羊みたいな瞳孔をしているんですね」と感激したように呟かれて、顔が引きつる。なんともやりにくい。初の召喚主がこんな相手だとは、己の不運さが恨めしかった。
悪魔にオトモダチになれ、だと? この童子がおかしいというのは訂正だ。イカれている。
我わたしを前にしても全く揺らがない笑みに不気味なものを覚え、王であるこの我わたしが不覚にも恐れを抱いてしまった。
これが我わたしとソロモンとの、長いようで短かった日々の始まりだった。
――
―――
バエルとソロモンの出会いの短い話でした。
一柱目ゲットだぜ。
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