第85話
一年で一番暑い時期が来て、そのころにはわたしはもう泣かなくなっていた。強くなったからではない。泣くのに疲れただけだ。だらしないくらい汗が出て、黄薔薇について考えすぎた頭が煮詰まってしまったような気がする。
黄薔薇の頭は、どこにあるのだろう。もう、わからなくなってしまった。けれど彼女の声は聞こえる。
「沙良さん、続きを読んでください」
と。ボイスレコーダーが体中を巡っているという話を思い出した。
わたしは読んだ。「ブラームスはお好き」だっただろうか。主人公の最後の台詞を聞き、黄薔薇はくすくす笑った。
「おばあさんだからと何もかも諦めては、いけませんよね。わたしは愛するものを諦めたりしませんよ。人生も」
完全に実となった黄薔薇の頭頂を見ると、唇が見えた。ああ、これが今の黄薔薇の唇か、とわたしはぼんやり思った。
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