第84話
人生を楽しむ。それは黄薔薇が最近よく使う言葉だった。わたしには人生が終わりかけた者の言葉であるかのように感じられた。わたしは黄薔薇の言うとおり、本を読んだ。声が震えた。わたしは泣きながら「嵐が丘」を読んだ。
帰りがけに、森を見た。白薔薇がじっとこちらを見ながら立ち尽くしている。涙は枯れ果てたのだろうか。そう思わせる姿だった。頭の白い花弁はしおれ、端正な顔は汚れている。表情は、険しい。わたしを恨んでいるのだろう。そう思うと、涙が出た。
静雄の薔薇園に寄った。薔薇は全て散り、実ったものは丸く頭を膨らませていた。黄薔薇のように。静雄は薔薇の世話をしながら、酔っ払ったかのような上機嫌で、来月には薔薇の剪定だ、とわたしに言った。わたしはまた泣いた。静雄は困った顔をしたが、沙良、彼らの命を無駄にしないためには黄薔薇のことは仕方ないことなんだよ、と呂律の回らない声でわたしを諭した。
わたしの涙は梅雨の間中、枯れることはなかった。
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