第83話
雨がやんだ蒸し暑い日、わたしは黄薔薇に「嵐が丘」を読み聞かせしていた。彼女は大人向けの小説を好むようになっていた。途中で、息が詰まる。どうしたのですか? と黄薔薇が訊く。真ん丸な喉の上にある、小さな頭から。彼女の喉はかなりふくらみ、体は変形してきていた。特に顔。彼女の顔は丸い実の表面に溶けかけていた。頭にあった花弁はしおれてちぎれ、無残な姿となっている。どうしたのですか? 黄薔薇がもう一度訊く。
「辛いのよ」
わたしは泣いている。無責任な涙だとわかりながら。
「辛いのですか? 大丈夫。わたしは何も辛くないのだから沙良さんは泣かなくてもいいのですよ」
黄薔薇がわたしを慰める。
「あなたをこんな姿にした自分が嫌なの。それに、白薔薇はわたしを嫌っているし」
わたしに泣く資格はない。けれど言葉も涙も流れ出してくる。
「酷い白薔薇ですね。あとで言っておきますから」
黄薔薇は実に体を乗っ取られてしまったかのような姿で、わたしに微笑みかけた。
「沙良さん。泣いている時間はないのです。読んでください。わたしは人生を楽しみたいのです」
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