第80話

白薔薇は、わたしに近寄らなくなった。わたしが来ると、森の中に入ってしまう。わたしは寂しく思う。白薔薇とも、仲良くなりたかったから。


「沙良さんの髪は素敵ですね。わたしの髪はしおれてしまって、もうあまり美しくありません」


 黄薔薇が言う。わたしは思わず振り返って、黄薔薇の腰まで伸びた長い花弁を見る。確かに色あせて、張りがなくなっていた。彼女の花は枯れかけていた。わたしは何も言えなくなって、彼女の寿命のことを思う。あと半年。


「咲き、しおれて、子孫を作り、死ぬ。子孫も咲き、しおれて、子孫を作り、死ぬ。その繰り返しです」


 何と返事をすればいいのかわからない。けれど黄薔薇は笑っている。


「知っていますか? わたしは白薔薇を愛しているのですよ。彼の子供を得ることは、かけがえのない幸せです」


「白薔薇はわたしたちが勝手に受粉させたのよ」

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