第79話

「おれもそう思うよ。でも薔薇は命を繋がなくてはいけないんだ。感情を持っていようと、いまいと」


 わたしは彼をちらりと見、目を伏せた。そのまま自分の家に向かう。彼が立ち止まり、わたしを見つめているのがひしひしと伝わってくる。わたしが静雄の表情に見た気がしたのは、狂気だった。生母と同じ、狂気。


     *


 二度目の受粉作業も済み、わたしと黄薔薇は相変わらず仲良くしている。黄薔薇はわたしの髪をいじるのが楽しいようだ。リングから出した流行のまとめ髪の画像を真似して、黄薔薇は器用にやってのける。わたしはリングの鏡機能を使って、黄薔薇がまとめてくれた髪を、よく見る。自分の顔には、あまり慣れない。今まであまり見たことがなかったから。やはり醜いと思うが、このコンプレックスを美しい黄薔薇にぶつけるのは、間違いだとわかっている。わたしは黄薔薇を好いている。黄薔薇の受粉が失敗していればいいと、心から思う。

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