第77話
わたしと白薔薇はそれぞれ別の場所で二人を眺めていた。わたしは、辛い。白薔薇はもっと辛いと思う。彼の花粉が彼女を死に追いやるのだから。
「白薔薇、来て」
静雄が呼ぶ。白薔薇は黄薔薇のいる池の外に立ち、動かない。静雄が苛立ったようにかすかに声を荒らげる。
「白薔薇」
ようやく、白薔薇は二人の元に行く。ゆっくりと。静雄は白薔薇がたどり着くのも待たず、こう言った。
「黄薔薇の柱頭に花粉をつけてくれ」
大丈夫だと言うかのように微笑んだ黄薔薇のそばに着くと、白薔薇は目を伏せて彼女の肩に両手を置く。そして、口づけをする。黄薔薇が白薔薇の頭を抱え、白薔薇の口の中に自らの白い舌を挿し入れる。舌は、雌しべだ。雌しべの先に柱頭があり、ここに花粉をつけることで彼女は受粉する。彼女は何度も何度も白薔薇の口の中を撫でた。彼らの顔に喜びはない。黄薔薇は使命感を、白薔薇は虚無感を抱いているだけだ。
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