第73話

「じゃあ、始めるわよ」


「待ってください。静雄さんが来ました」


 黄薔薇の言葉に振り向くと、確かに静雄が薔薇園から近づいてきていた。わたしたち三人は、じっと待つ。彼は強張った表情で歩いている。わたしたちをひたと見つめている。


 彼は黙ったままわたしたちの元に来た。


「どうしたの?」


 わたしが訊くと、静雄は淡々と言った。


「黄薔薇と白薔薇を交配しようと思う。黄薔薇の雌しべに白薔薇の花粉を受粉させる。沙良、いいよな」


 わたしは黙った。呆然としていた。封印していた呪いが、突然噴き出してきたようだった。静雄は険しい顔のまま、黄薔薇と白薔薇のほうを見た。


「二人とも、大丈夫だろう?」


 黄薔薇はきょとんとしていたが、やがて大きく笑った。白薔薇がそれを見て悲痛な顔をし、次に黄薔薇に勢いよく抱きついた。


「駄目だ、黄薔薇。決してうなずいては駄目だ」

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