第72話

と。「ナイチンゲールと薔薇の花」は、赤い薔薇をほしがる青年のために、ナイチンゲールが白い薔薇を自らの血で赤く染めて贈るものの、無駄に終わってしまうという内容だ。黄薔薇は悲しい話も好きだ。何より薔薇が意思を持って出てくるのが嬉しいのかもしれない。


 「いばら姫」が終わってすぐに、黄薔薇は次の話をせがんだ。


「薔薇の話を聞きたいです」


 黄薔薇はてのひらを合わせ、白薔薇に視線を送った。白薔薇は微笑んだ。


「それじゃあ、アンデルセンの『薔薇の花の精』は?」


「素敵ですね。『ナイチンゲールと薔薇の花』より美しいですか?」


「そんなのわからないわ」


 わたしと黄薔薇はくすくす笑い合う。わたしたちはここ数日で随分仲良くなった。年の近い少女と一緒に過ごしたことのないわたしには、黄薔薇とじゃれあったりするのが新鮮で面白い。わたしたちが騒いでいるのを、白薔薇はかすかに笑って眺めている。

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