第70話
「今日は何を読む?」
わたしはリングの画像ではなく、図書室の本を用意して黄薔薇たちに訊く。一度リングから出した物語を読み聞かせたことがあるのだが、味気ない気がしてやめたのだ。リングの活字は一人で楽しむものであるように思う。紙の本は指を乾かしてしまうし、時には切る。最初は、活字を読むために実在する本をめくるという行為が不思議でならなかった。
「とびきり美しい話を読んでほしいです」
黄薔薇が笑顔で答える。白薔薇は黄薔薇が腕に絡みつくのをうるさそうにはせず、少しだけ微笑む。彼らは水耕栽培の池の中に足を浸し、クローバーに足を投げ出したわたしの言葉を待つ。
「それじゃあ、『いばら姫』にするわ」
わたしは本の目次を見て、そう答える。美しい話ならいくらでもある。黄薔薇が喜びそうな話がたくさん。
黄薔薇は物語が好きだ。それも美しくて複雑ではない物語が。一度ポーの「黒猫」を読んだら、恐ろしいからと途中でやめさせられた。彼女は怖い話が嫌いだ。
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