第68話

歩けば歩くほど、風景が変わる薔薇園。昨日見た色々な薔薇たちが、打って変わって明るく見える。昨日は毒々しい色だったが、今日は鮮やかな色彩だ。これが、わたしの待っていた薔薇園だ。わたしは清々しい気持ちで出口にある蔓薔薇のアーチをくぐった。前を歩いていた静雄は手洗い場に向かい、手を水でごしごし洗った。石鹸も使った。いつもならそこまでしないのに、と思っていると、その手をタオルで拭いてからわたしのほうを向き、


「髪の毛、触っていい?」


 と控えめに訊いた。わたしは驚いたが、うなずき、静雄に近づいた。静雄はそっと手を伸ばし、わたしの後頭部のお団子に手を伸ばした。何だ、髪型が珍しかっただけじゃないか、と思って笑ったら、静雄はこうつぶやいた。


「きっと見られてるよな」


 多分、カメラの向こうの人々のことだ。わたしはそれを聞くと、怒りよりも嬉しさのこもった恥ずかしさを覚えた。頭の上のお団子が、ぽん、と優しく触れられたあと、わたしと静雄は見つめあい、くすりと笑った。


     *

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る