第67話

赤い口紅がとてもよく似合う人だった。わたしはちくりと胸が痛むのを覚えた。今更彼女が選んだ服を着ても、手遅れかもしれない。信じる宗教のないわたしは。静雄のように魂を意識したり、極楽浄土や天国を考えることなどない。輪廻転生もわからない。死んだ人間が形を変えてどこかにいて、わたしを見守ってくれていると思うのは、わたしにはできないことだ。だから、悲しい。


「沙良はピンクの薔薇が似合うね」


 不意に、静雄がわたしを見て言った。彼はすぐに目を逸らして白い薔薇から隣のピンクの薔薇の前に移った。内側から外側に向かって花弁のピンクが淡くなっていく薔薇。かわいらしい色で、わたしはこの薔薇が初めて咲いたときから気に入っていた。


「この薔薇は、沙良の薔薇だと決めてるんだ」


 今度は静雄の顔が見えない。わたしはじっと静雄の後頭部を見、ピンク色の薔薇を見、次第に顔が熱くなっていくのを感じた。風が吹く。薔薇園の薔薇たちが揺れている。わたしたちを見て、噂しているように見える。ピンク色の薔薇が恥らっているように思える。恥らっているのはわたしで、噂しているのはカメラの向こうの人々だとわかっている。しかし、そう感じた。

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