第66話

「静雄さん」


 そばに行って声をかけると、静雄は驚いて肩を一瞬上げてからわたしを見た。不思議そうに、わたしを見つめる。わたしは見られることを恥ずかしく思いながら、それでも見てほしい気持ちに駆られて目を逸らさず見つめ返した。静雄はしげしげとわたしを眺めたあと、わたしのほうに手を伸ばして、はっとして引っ込めた。その手を薔薇の茂みに入れる。目の前の白い薔薇が傷んでいないか、点検しているのだ。静雄が訊く。


「どうだった? 昨日は」


 わたしは静雄が服装について何も言ってくれないことにがっかりしながらも、昨日のわたしと父を心配してくれている彼に感謝した。


「お父様とは、仲直りできたの」


「そう、よかった」


 作業しながら静雄が微笑む。


「静雄さんからもらった薔薇は、お義母様のイメージにぴったりだったわ。明るくて華やかで、赤い薔薇のような方だったから」

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