第65話

「わたしたちは同じなのね」


 静雄がこの間言いかけていたことを思い出した。あれはまるでおれたちだよ。そう言いたかったのではないだろうか。わたしもヒト薔薇も一緒だ。同じように人の手が加わっている。


「沙良さん」


 黄薔薇がいつもの明るい笑顔を見せた。


「沙良さんの今日の格好、素敵ですね」


 わたしははにかみ、少し笑った。


     *


 静雄の薔薇園に行く。わたしは革靴で芝生を踏み、その柔らかい感触に驚いた。こんなに当たり前のことに気づくのは、わたしが身なりを変えて自意識過剰になっていたからだと思う。静雄の家の敷地に入るのが、こんなに勇気のいることだとは思ったことがない。


 静雄の薔薇園は広い。何坪あるだろうか。わたしにはわからない。わたしは静雄の頭を見つけると、ワンピースにかぎ裂きを作らないよう用心しながら歩いた。横顔の静雄は満開の薔薇をじっと見つめ、ぼんやりしている。いつもは手をとめずに作業しているのに、どうしたのだろう、と思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る