第61話

映し出される生母は無言で本を読んでいた。ただただページをめくっている。静雄くらいの年齢に見える茶色い肌の少年が近づき、何事か話した。言語が日本語ではないのでわからない。公式サイトの説明文を日本語にすることはできても、リアルタイムで話される言葉を翻訳するのは少し面倒だ。わたしは静観する。生母は少年と向き合うと、彼と同じ言葉で何か言い、少し笑った。


 わたしたちは環視されているのよ。


 そう言った気がした。わたしは何故だかとても悲しくなった。生母は何かに囚われて、とうとうおかしくなってしまっているようだった。その笑顔は少し歪んでいた。


「これでいつでも恵理を見られるから、安心しなさい」


 父の声は優しかった。わたしは立ち上がり、父のほうに向かって歩き出す。父は戸惑ったようにわたしを見、わたしが抱きつくと強張った。しかしすぐにわたしを抱きしめて、泣いているわたしに、大丈夫、と言った。

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