第56話

森から気配を感じた。黄薔薇が白薔薇の手を握って、立ち尽くしている。わたしは急激に苛立った。そして振り返ると、わたしを背後から撮っている空中小型カメラをてのひらで叩いた。わたしたちのこの姿を見て、フィクションのために流す涙を流している、無数の目を思い出してしまったからだ。


「くたばれ」


 わたしは小さな声でつぶやいた。


     *


 昼になって、わたしと父は二人きりで家に戻った。その直前、静雄が肩を叩いてくれた。わたしは不安だったが、何となく父とうまくやっていけそうな気がしていた。


 父は書斎にわたしを招いた。ここ数年入っていなかったその部屋は、わたしが幼いころとそう変わりがなく、右側の壁に取りつけられた本棚に飾りでしかない本が並び、色あせない緋色の絨毯が敷かれ、大きな机と、絹張りのソファーセットがあった。わたしと父は向かい合ってソファーに座り、しばらく無言だった。

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