第52話
静雄が無言でわたしに近づいてきた。そして、訊く。
「何色がいい?」
「赤。鮮血のように明るい赤がいいわ」
再び歩き出す静雄に、わたしはついていく。今日の静雄からはあまり妙な匂いがしない。
薔薇の通路は狭くて、棘がわたしの喪服に絡みつく。薔薇を傷つけないようにそっと進む。静雄は薔薇園の途中で立ちどまると、剪定ばさみを枝の隙間に入れ、一番見事な赤い薔薇を切った。花びらが程よく中に詰まっていて、また、わたしが言った通りの色をしていて、この日のために誂えたかのようで、美しいけれど何だか悲しかった。
静雄も喪服を着ていた。黒い背広に細い黒ネクタイ。いつも作業着に身を包んでいる静雄に、それはしっくり来なかった。それに、痩せているしまだ十七歳だから、背広が似合わないのだろう。私たちは子供だ。改めて思った。
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