第51話
夜、麻酔剤が撒かれた。そのころわたしはベッドの中にいた。新しく戯曲を読んでいた。「ロミオとジュリエット」。どうしてもわたしは恋愛ものばかり読んでしまうらしい。
眠気を感じた。それから、一気に眠った。このとき、わたしの家族は全員眠っていただろう。義母は「病院」に連れて行ってもらえるのだろうし、新たなヒト薔薇が来たりするのかもしれない。わたしが眠る直前にそう考えたと思ったのは、のちに作り上げた偽の記憶のためだろう。麻酔剤は考える暇も与えてくれないから。
朝、やってきたのは義母とその子の遺灰が入った白い壷だった。わたしは数年ぶりにわたしたちの公式サイトを見、大袈裟に、悲劇的に、彼らの死が喧伝されているのを見た。
*
薔薇が満開だった。赤い薔薇、白い薔薇に加え、紫色の薔薇、黒い薔薇、二色の薔薇、黄色い薔薇、緑の薔薇、ピンクの薔薇、原始的な一重の薔薇など様々だった。わたしはその中をゆっくりと歩き、薔薇の芳香に包まれていた。たくさんの薔薇。競うように咲いている。薔薇の花弁に触ると、より繊細なビロードのようで、感動したわたしは唇を噛み締めなければならなかった。感動してはいけない、と自分に命じていたからだ。待ちに待ったこの日が、こんな日になるとは思っていなかった。重苦しい気分に、自分を押し潰してしまいそうだ。
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