第48話

今、「お腹が痛い」と言ったから大丈夫。明日の夜中には会社があなたを「病院」に連れて行ってくれるはず。心配しないで。


 それだけの言葉をわたしは頭の中に積み上げた。それを彼女に発するのは勇気がいる。わたしは一瞬黙り、


「どうにかなるわ」


 と答えた。わたしは焦った。言葉を続けなければ。しかし義母は、そうね、と諦めたような声を出し、次に明るい声でこう言った。


「そうだわ。沙良さんのために新しい服を用意したのよ。今度は着てくれるといいわ」


 わたしは彼女がわたしに与えた服を一枚も着なかったことを少し申し訳なく思った。今度の服も、きっと着られない。彼女への意地のために着られない。


「ええ、じゃあ、おやすみなさい」


 わたしはそれだけ答えて、自分の部屋に戻った。わたしは義母に優しくするように言った静雄に、恨みがましい気持ちを持った。義母は廊下にしばらくいたあと、部屋に戻ったようだった。

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