第44話

声が詰まる。最後の言葉はギターの弦を強く弾いたような終わり方をした。静雄は体をかがめて、わたしの顔を覗き込む。


「誰が言ったの」


 静雄の目を見ると、きらきら光ってきれいだった。わたしは泣いていた。静雄の目の輝きが、涙を通して見るせいで余計にまぶしく見えた。


「カメラの向こうにいる、誰か」


「そんな奴は、ほっとけばいいよ。大丈夫だから」


 笑っている静雄の口からあの妙な匂いがした。大丈夫ではない、と思った。何が大丈夫なのだろう。そんな言葉は、間に合わせの嘘に決まっている。わたしは静雄から体を離し、一人で涙を拭いた。


「静雄さん、黄薔薇はいつ枯れるの?」


 え? と静雄が間の抜けた声を上げる。


「十二月ごろ、だけど」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る